メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トルコのイケメン塩ふりシェフ

最近、日本で「トルコのイケメン塩ふりシェフ」というのが話題になっているらしい。料理に塩を振るシェフの姿が格好良いそうだけれど、あのシェフ、そんなにイケメンだろうか?
トルコに、ああいう風貌の気障な男なら、それこそ掃いて捨てるほどいるような気がする。
とはいえ、久しぶりに暗くない話題でトルコが取り上げられて嬉しい。あれをイケメンだと思う日本の女性たちが、大挙してトルコに押し寄せてくれたら、もっと嬉しい。
嘘でも誇張でもなく、トルコへ来てもらえれば、本当に、あの程度の“イケメン”なら、そこらじゅうで見つけることが出来るはずだ。
しかし、残念ながら、トルコには、そういうイケメンに言い寄る“美女”も掃いて捨てるほどいる。こちらは、いつも注意深く観察しているから、確信をもって断言できる。
イスタンブールで地下鉄に乗れば、1車両に1人ぐらいは、ずっと眺めていたくなるような“美女”がいる。日本では全車両隈なく探しても難しいと思う。
だから、私ら日本人が、トルコで、イケメンや美女に言い寄っても巧く行くことは、なかなかないかもしれない。
トルコの男たちに訊いても、大概、「いやあ、女性はトルコの方が、断然きれいですよ」と言う。逆も、おそらく同様だろう。
10年くらい前だったか、「日本の女性は美しい」と頻りに称賛する友人がいて、何処でその美しい日本人女性を見たのか訊いたら、財布の中から、日本の女優や歌手のブロマイド写真を取り出して見せたので、呆れてしまった。
おまけに、「トルコ人の女がどんなに不細工か証明する」と言い、今度は、自分の妹や親戚の写真を取り出して見せながら、「可哀そうな俺の妹、こんなブスで嫁に行けるのか心配だ」などと嘆くのである。
確かに、妹さんは余り美人じゃなかったけれど、そもそも、比較する対象が間違っているからお話にならない。でも、イスタンブールの街角には、日本の女優さんと比較しても、全く遜色のない美女がごろごろしている。
しかし、もしもお付き合いできるのだったら、私はやはり東洋人の女性の方が良い。西洋的な面影は、なんだか非現実的に思えてしまう。
一方、トルコでは、西洋人の容貌が当たり前だから、却って東洋的な面影にエキゾチックな魅力を見出す人たちが結構いるのかもしれない。
友人家族の長男坊エルシンの高校の同級生にオヌルという青年がいて、彼は「塩ふりシェフ」などよりよっぽどイケメンじゃないかと思えるが、初婚の相手も、今度再婚した相手も、いずれも少し東洋的な美貌のトルコ人女性である。
そもそも、13~4年前に知り合った頃、オヌルは日本人の恋人を連れて歩いていたが、今から思えば、彼女はその後の結婚相手らに、とても良く似ていた。どうやら、彼は、そういう“東洋的な美貌”に非常な拘りをもっているようだ。
日本人の彼女は、広い額と切れ長の目で、まさしく私好みの美人だった。
おそらく、私の顔には、『おっ、好い女だな』という表情が浮かんでいたのだろう。彼女が席を外してから、オヌルは険しい目つきで私を睨むと、「おいジャポン(日本人)、ちょっとこっちへ来い。お前に話がある」と凄んだ。
私が、これにどう対応したら良いものかと迷っていたら、エルシンが素早くオヌルを引き寄せ、何事か耳元に囁いた。多分、『この人、俺たちより23も年上だぜ』とか言ったに違いない。
オヌルは、えらく恐縮した様子で居住まいを正すと、丁重に非礼を詫びた。当時、私が43歳で、彼らは20歳だった。トルコには、こういう年長者への敬意といったものが、まだ失われずに残っている。
困ったことに、それから何年経っても、オヌルは、私と会う度に、なんだか丁重過ぎる挨拶を繰り返すのである。もういい加減にしてもらいたいけれど、トルコの社会では特に不自然な丁重さではないのかもしれない。