メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

政治意識の高いトルコの人々

1~2ヶ月前だったか、ジャン・パケル氏がニュース専門局の番組で「トルコの民衆」について語っていた。ジャン・パケル氏は、トルコのエスタブリッシュメント的な知識人と言って良いかもしれない。

1980年の軍事クーデターで政権を掌握した軍部は、現在のトルコ憲法を作成させて、国民投票にかける。パケル氏は、知識人として、この非民主的なやり方に反対したが、憲法は、90%に近い賛成多数で承認されてしまう。
ところが、民政移管を前にした国政選挙で、民衆は、軍部の推す政党ではなく、軍部が強く反対した「祖国党」を圧倒的な票差で政権に就ける。
パケル氏によれば、民衆が、軍部の押し付け憲法を認めたのは、これを認めなければ軍政が終わらないことを知っていたからであり、トルコの民衆は、自身のような知識人よりも、様々な局面で遥かに的確な判断を下してきたと言うのである。
現在でも、AKP政権の確実な固定票は、30~35%に過ぎず、おそらく20~30%ぐらいの浮動層が、その時々の状況を見ながら判断して投じる票により、選挙の結果が左右されているらしい。
パケル氏が評価する「民衆」とは、この層を指しているのだろう。その多くは、確かに保守的で、所謂「民衆」のカテゴリーに入る人たちであると思う。
一方、第一野党CHPも、AKP以上に確実な20~25%の固定票を持っているけれど、浮動層を全く引き寄せることが出来ず、選挙の度に惨敗を重ねて来た。
2011年まで住んでいたエサットパシャにあったお菓子屋さんの店主(60歳ぐらい)は、2002年から、AKPに票を投じて来たと言いながら、その理由を次のように説明していた。
「AKPの顔ぶれが、ネジメッティン・エルバカン師の時代と変わっていなかったら支持しませんでしたよ。エルバカン師は一度試されて結果を出せなかったじゃないですか? AKPにはそれまでにない新しさを感じて、一度試してみたら良くやっているので、支持を続けています」
このお菓子屋さんに、「CHPはどうですか?」と訊いたら、「彼らも試用済みで、以来何も変わっていない。何か新しいものを見せたら、もう一度試しても良いでしょう」と答えていた。
私が話す機会のある街の人々は、どうしても、こういった商店の経営者に偏ってしまいがちで、今のイエニドアンでも、家庭の主婦や勤め人の意見は殆ど聞くことができない。
商店主は、小さな店でも、長い間、経営を成り立たせて来たわけだから、あまりぼんやりした人はいないし、概ね、政治や経済の動きにも敏感であるような気がする。
また、彼らのような商店主には、もともとAKPの支持者が少なくない。民営化を進めて、公務員の権利を制限しようとしてきたからだという。
しかし、こういった人たちが、要するに浮動層と言われる部分を成しているのではないだろうか? 
彼らの見解はなかなか重要であるかもしれない。
しかも、実際に的確な意見が多く、有名人の議員さんばかり持て囃される日本の状況を考えたら、羨ましい限りだ。
いずれにせよ、トルコでは、人々の政治意識が、日本とは比べようもないくらい高い。それは、いつも80%近くになる投票率にも表れていると思う。

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