メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

デスクの陰からバットをちらつかせる?

(3月7日)

先日、地下鉄の駅で、野球のバットを2本、ビニール袋に入れて持ち歩いている中年男性がいたので、驚いて「ベースボールするんですか?」と訊いたら、「いやあ、これは私が扱っている商品なんですよ」と言う。

トルコには、おそらく野球場もないし、プレーするどころか、野球を知っているトルコの人も殆どいないのではないかと思っていたけれど、バットが商品になっていると聞いて、もっと驚いた。

20数年前、日本で、友人が働いている語学学校をトルコ人の友人と共に訪ね、友人の授業が終わるのを職員室で待っていたところ、来客用ソファの前に置かれたテレビが「日本シリーズ」の実況を伝えていた。

ヤクルトは、岡林投手があの伝説的な力投を続けていて、バッテリーと打者の間に息詰まるような駆け引きが展開されている。私はアメリカ人英語講師と並んで、テレビの画面に釘付けになってしまった。

ところが、トルコ人の友人からすると、この光景はとても奇異に思えたそうである。私たちが興奮して見つめる画面には、キャッチャーのサインを窺う岡林投手の姿が映し出されているだけで、これといったアクションもなかったからだという。

友人は、当時、1年ぐらい日本で暮らしながら、食べ物を始め、ありとあらゆる日本の文物に興味を示して、果敢にチャレンジしていたものの、野球にはどうしても馴染めなかったらしい。

確かに、野球はルール等を熟知しないと、観戦しても余り楽しめないスポーツだろう。

この野球のバットが商品として流通しているのであれば、非常に画期的なことである。もちろん、その辺りの状況も、バットを扱っているという人に訊いてみた。

そうしたら、その人がおかしそうに笑って、次のように説明してくれたので、なんだかがっかりしてしまった。

「お客さんの中にも、ベースボールやっている人はいないでしょうね。これは室内や車の中に飾るアクセサリーとして使われているんじゃないかと思いますよ」

そういえば、数年前、トルコの新聞に、「ホワイトハウスの執務室で、エルドアンと電話会見しているオバマは、もう一方の手でバットを握りしめていた」という記事が、写真と共に掲載されて話題になっていた。

「マントの陰から棍棒をちらつかせる」というトルコ語の諺に擬えて、トルコを暗に恫喝しようとするオバマ大統領の態度が論じられていたのである。

あれ以来、トルコでも、野球のバットは少し有名になっていたかもしれない。

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