メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

三方よし

「売り手よし、買い手よし、世間よし」の“三方よし”という言い回しは、昭和以降に作られたそうだけれど、江戸時代から近江商人の心得として、そういった概念が伝えられてきたのは確からしい。

クズルック村の工場も、「地域還元」をモットーの一つに掲げて、トルコの世間にも良い企業運営を図っていた。他の海外生産拠点でも、採算が難しくなったら、直ぐ他の国へ工場を移転するようなことはせずに、なんとか生産性を高めて継続に努めていたという。

日本の企業には、国内・国外を問わず、こうして「三方よし」を考えながら、経営を成り立たせているところが多いのではないかと思う。

しかし、最近、韓国のニュースを伝え聞く限りでは、韓国財閥企業の多くが、「売り手よし」だけの状態になっていたようである。サムスンも現代も、創業者のイ・ビョンチョル氏とチョン・ジュヨン氏には、強い愛国意識が見られたそうだから、非常に残念な気がしてならない。

ところで、ある人が言うには、この「三方よし」、まず「売り手よし」から始めている点が、なんとも粋であるらしい。仰々しく「世間よし」から掲げたら、結局、嘘臭さだけが目立ってしまったはずだというのである。

これには思わず納得させられた。近頃、世の中には、「世間よし」から言いたがる嘘臭さが蔓延しているように感じていた所為だろうか?

一方、アメリカの大統領選で、トランプ候補は選挙期間中、「売り手よし」ばかり強調していたけれど、当選を決めると、その後は結構「買い手よし」や「世間よし」になる話も持ち出している。

もしも、選挙期間中から「世間よし」で始めていたら、おそらく当選できなかったに違いない。ひょっとすると、世界中の人々が、もう余り嘘臭い話には、うんざりしているのかもしれない。