メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

強まる民族主義的な傾向?

現在、憲法の改正が議論されているトルコの法律は、イスラム法ではなく西欧の法律がベースになっていて、これに対する不満の声も殆ど聞かれない。
ひと頃騒がれていた「政教分離の危機」も、今や相当ラディカルな政教分離主義者の間で取り沙汰されているだけじゃないだろうか?
私も「政教分離の危機」あるいは「イスラム化」といった問題に、長い間、弱い頭を悩ませていたけれど、これは全くの杞憂だった。
しかし、最近、国難と言える状況が続いたためか、トルコ民族主義的な傾向は強まっているような気がして不安になる。
憲法改正を巡っては、AKP政権と民族主義的な右派野党MHPの協調が話題になっている。
もともと、AKPとMHPは、基盤が似通っていて、AKPが明らかに異なる姿勢を見せていたのは、クルド問題への対応ではなかったかと思う。
自身がクルド人であるAKP議員のメフメット・メティネル氏は、クルド語の放送や教育等、クルド人の要望が受け入れられ、クルド人民衆の多くは、既に分離独立を掲げるPKKを支持していないのだから、クルド問題は解決したも同然であると語っているものの、南東部クルド地域の民衆がAKPを支持するようになったわけではない。
彼らの多くは、AKPとMHPの接近を好ましく思っていないだろう。
とはいえ、イスタンブールなどに住んでいるクルド人の中には、MHPの支持者もいる。ウルファやガズィアンテプといったクルド人の多い南東部の諸県でも、MHPは少なからぬ票を得ている。
辺境の人たちは、国土の分割といった危機を身近に感じるため、却って民族主義的な傾向が強まるという説もある。
オスマン帝国の末期に、青年トルコ人革命の主体となった「統一と進歩委員会」の創設者が、アルバニア人クルド人、チェルケス人などから構成されていたのも、この説に結び付けられたりする。
トルコ民族主義を提唱したズィヤ・ギョカルプも南東部のディヤルバクルの出身で、クルド人だったと言われている。アタテュルクも、現在はギリシャ領になっているテッサロニキの出身である。
トルコの民族問題はなかなかややこしいが、エスニックというより、政治的な側面が強いのは確かじゃないかと思う。