メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

アタテュルク空港爆破テロはISの犯行か?

アタテュルク空港爆破テロは、ISの関連組織による犯行とほぼ断定されたようだけれど、例によって、ISからは犯行声明が出ていない。
そのため、トルコの反エルドアン・反AKP系メディアは、ISとAKP政権の間にまるで協力関係があったかのように論じている。
「AKPはISから石油を購入している」といった説だが、現在は欧米の主だった公的機関がこれを否定しているにも拘わらず、一部の欧米メディアからも同様の論調が相変わらず繰り返されているらしい。
オラル・チャルシュラル氏の7月2日付けポスタ紙のコラムによれば、欧米メディアは、トルコの反エルドアン・反AKP系メディアの記事を引用して伝えているそうだ。
こうしてネタがトルコの国内から提供されているのであれば、「捏造だ」と言って一方的に欧米のメディアを責めるわけにも行かない。(なんだか似たような問題が、数年来、日本でも騒がれているけれど・・・)
ISにしても、犯行声明など出さない方が、トルコを一層困難な立場に追いやることができる。
しかし、トルコ政府が、当初、ISの掃討に余り積極的でなかったのは確かかもしれない。人質の救出で見られたように、情報機関は彼らとの間に何らかのパイプも持っていたと思われる。
とはいえ、トルコとシリアの間には長い国境線があり、難民の流入もあって、ISのメンバーが入り込んで来るのを未然に防ぐのは非常に難しい。ISからテロの標的にされるのは、なるべく避けたかったに違いない。
そればかりか、トルコの国内にも、産業化と経済発展に伴う社会の変化に取り残されて、歪なイスラム主義思想にかぶれた集団は存在している。政府はそういった集団の動向にも神経を尖らせて来ただろう。
先日、トルコはイスラエルとの国交正常化に合意したが、これに不満を懐いているイスラム主義者も少なくないという。例えば、イスラエルとの国交が断絶する要因になった「マービ・マルマラ号事件(2010年5月)」の当事者であるイスラム系NGO“IHH”の内部からも、エルドアン大統領に抗議する声が上がっている。
パレスチナガザ地区に救援物資を輸送していたマービ・マルマラ号がイスラエル軍によって攻撃されたこの事件では、IHHの活動家ら数名が悲惨な死を遂げた。
これに対し、当時、エルドアン氏との関係が悪化していたフェトフッラー・ギュレン師は、マービ・マルマラ号がイスラエルの許可を得ずに航行したため問題が生じたと論じて波紋を広げる。
エルドアン大統領(当時の首相)は、すぐさま「許可は私が与えた。それで充分だ」と反論し、IHHを擁護していたけれど、今回、そのIHHから非難されると、彼らを窘めようとして思わず口がすべったのか、「首相だった私に断りもなく出航して・・・」と6年前の発言を覆してしまった。
どちらの発言が真実なのか、他に何が隠されているのか、私たちは知る由もないが、劇的なマービ・マルマラ号事件の裏で、フェトフッラー・ギュレン教団やイスラエルとの間に虚々実々の政治的な駆け引きが展開されていたのは明らかであるような気がする。
ひねくれた見方をすれば、ギュレン教団を親米・親イスラエルと罵っていたエルドアン大統領は、教団との勝負をつけてからじゃないと、国交正常化に踏み切れなかったのではないか。
いずれにせよ、多くのAKP支持者たちは、そういったエルドアン大統領の現実的で柔軟な姿勢にそれほど不満は懐いていないと思う。しかし、IHHの抗議に同調するイスラム主義的な支持者も少なからずいるはずだ。
大多数の支持者とは異なり、このイスラム主義的な人たちは、「AKP政権によって“イスラムの信仰”が社会の中で活かされ尊厳を回復した」ぐらいでは満足していないかもしれない。
それよりも、さらにラディカルなイスラム主義者たちは、そもそも最初からAKPなど支持していない。10%の得票率が確保できないため、いずれも議席は持っていないものの、いくつかのイスラム主義政党が活動を続けている。それとは別に、規模は小さいながら、もっと過激な思想を喧伝している様々な教団もある。
産業化と経済発展にともない、AKP政権の14年間で、伝統的な社会は却って急速に変化してしまった。取り残されて歪な思想にかぶれた連中が、かつてはイスラム主義者として身近に感じていたAKPを恨んでいるとしても不思議ではない。
彼らは、ヨーロッパのキリスト教社会で疎外感を深めて行ったと言われるISのメンバーと類似しているような気もする。