メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

分割して支配

これまでトルコの人たちから何度聞かされたのか数え切れない、アングロサクソン(米英)の恐ろしさを表す言葉がある。「彼らは必ず分割してから支配する」というのだ。
我々日本人としては、「必ず挑発して相手に手を出させてから、もっともらしい大義名分を掲げて返り討ちにする」ではないかと言いたくなるけれど、オスマン帝国を分割されてしまったトルコの人たちにとっては、この「分割支配」が何より恐ろしいらしい。
そもそも、第一次世界大戦中、オスマン帝国をもっと細かく分割してしまうつもりだったイギリスを中心とする連合軍が、イスタンブールの占領を目論んで、ダーダネルス海峡からガリポリ半島へ上陸しようとした「ガリポリの戦い」では、オスマン帝国が同盟国側に与していたため、連合軍は特に大義名分を掲げる必要もなかった。
この戦争でオスマン帝国軍は、約5万5千人に及ぶ戦死者を出しながらガリポリ半島を文字通り死守する。もしも上陸を許していたら、“トルコ共和国”は生まれずして滅んでいただろう。
こういった歴史的な経緯もあり、トルコの指導者たちは「分割支配」とそれを企てるアングロサクソン(米英)を非常に恐れて来たのではないかと思う。
その所為で過剰防衛に陥り、長い間、門戸を狭めて閉鎖的になり、あまり積極的な外交も展開して来なかったのかもしれない。わけても、かつてのオスマン帝国の領域でムスリムの同胞が暮らす中東とは、なるべく関わりを避けていたようだ。
80年代になって、改革開放を唱えたオザル政権が、中東へも目を向け始めると、中東の人々はこれを歓喜して迎えたという。いつ何処で読んだのか忘れたが、その記事によれば、人々は「トルコが初めて我々の方を振り向いてくれた」と喜んでいたらしい。
確かに、最近、シリアやイラクから逃れて来た人たちに会って話を聞いたりしても、『イスタンブールオスマン帝国以来の求心力を失っていない』と実感することがある。
しかし、これは「分割支配」を目論む側にしたら、不愉快で堪らないはずだ。かつてトルコが中東との関わりを避けて来た背景には、こういう要素もあったのではないだろうか? 連中を不愉快にさせるのは何よりも恐ろしい・・・。
トルコでは、アメリカがシリアへの介入を見送ったのは、介入してアサド政権が倒れると、その後に親トルコ的な政権が誕生してしまう可能性があった為だという説も聞かれる。この場合、イスラム原理主義的であってもサウジアラビアのように親米ならば問題とならない。
先日の報道によれば、シリアでアメリカの支援を受けている反体制クルド人組織PYDは、北イラククルド自治政府に対しても攻撃を繰り返しているという。これも、北イラククルド自治政府は非常に親トルコ的だからであると説明されていた。
とはいえ、エルドアン政権も、2013年の11月、自治政府のバルザーニ大統領をディヤルバクルに招いて盛大なセレモニーを開いたりして、少し強気になり過ぎていたのではないか。↓

エルドアン大統領は、事あるごとに「2023年の目標」を掲げて、「強大なトルコ共和国」の未来を描いたりもしていた。2023年は、共和国の創立100周年であると同時に、共和国の国境などを確定したローザンヌ条約の効力が切れる年でもあるそうだ。
嘘か真か、ローザンヌ条約には、トルコが領内の石油資源等を開発しないという密約が含まれているという。密約なんて言われると、なんだか怪しい感じがして、ちょっと眉唾じゃないかと思うけれど、「強大なトルコ共和国」の夢を見るには、もってこいの“隠し味”だったかもしれない。
でも、これは“不愉快”じゃ済まされない気がする。幸い、エルドアン大統領も徐々に巧くトーンダウンさせているようだから、そのうち雰囲気も落ち着いてくると期待したい。
「分割して支配する」は、確かにやられた側にしてみれば恐ろしい。しかもアメリカは、最近まで公然と分離独立主義のPKKを支援してきた。
ところで、現在の日本がアメリカによって分割されてしまう恐れはないものの、戦後、アメリカは大日本帝国もしっかりと分割している。この「分割して支配する」は、全ての強大な帝国が用いて来た手段に違いない。これを巧く使いこなせなかった“帝国”は滅びてしまっただけだろう。
この世は、結局、「勝てば官軍、負ければ賊軍」で、日本もトルコも賊軍側についてしまう愚行だけは避けなければならないと思う。

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