メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

まずは挨拶から:「お元気ですか!」

先日、チャーラヤンまで出かけた際、イスタンブール裁判所の直ぐ前を通った。間近に見るのは、これが初めてだったかもしれない。なかなかの威容である。
2011年に落成しているけれど、その時、ちょっとした不手際が話題になっていた。地下駐車場の天井が低すぎて、被疑者を乗せた護送車が入って来られないというのである。
設計者は、必要とされた高さ4.5mを確保したつもりだったが、その後から様々な配管が敷設され、3.8mまで下がってしまったらしい。
当時、新聞は面白半分に、護送車をやめて、丈の低い車で囚人を乗せた台車を引っ張ってくれば良いとか、脱走犯がやるみたいに、地下駐車場からトンネル掘って別の通路を拵えるとか論って、この不手際を茶化していたけれど、実際、どういう解決策が取られたのか、続報がなかったので良く解らない。
多分、ニュースになるほど面白くない当たり前な処置が施されたのだろう。
ところで、護送車といえば、17年ほど前、私は日本で護送車に乗せてもらったことがある。といっても、私が被疑者になったわけじゃない。トルコ人被疑者の通訳として同乗しただけである。
事件そのものは大した話でもなく、その過程でトルコ人青年のオーバーステイが発覚したため、強制送還という落ちがついて片づけられた。それでも、規定の法的な手続きは踏まなければならず、警察署から検察やら裁判所へ被疑者と共に出向いたりした。
被疑者の青年は、5年も日本にいて、かなり日本語が話せたから、護送車にまで同乗する必要はなかったけれど、要するに裁判所から警察署へ戻る他の車が手配できなかったらしい。お陰で、護送車の内部までじっくり観察する機会が得られて、とても嬉しかった。
護送車には、もう一人、日本人(だったと思う:30歳ぐらいの男)の被疑者が乗っていた。被疑者はいずれも手錠を掛けられ、腰紐まで付けられている。しかし、あとから護送車に乗り込んだトルコ人青年は、日本人被疑者の隣に座らされると、礼儀正しいトルコ人として、とりあえず挨拶しなければと思ったのだろう。トルコの人たちは本当に挨拶が好きだ。
日本人被疑者の方へ向き直り、手錠を掛けられた両手をさらに合わせるようにして、にっこり微笑みながら、「お元気ですか!」と挨拶したのである。
日本人被疑者は、一瞬、あっけに取られてトルコ人青年の顔を見たものの、直ぐに目を反らせて、憮然とした表情のまま何も言葉を返さなかった。手錠掛けられて護送車に乗せられ、“元気”であるはずがなかったに違いない。 

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