メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

“クルド和平交渉”の凍結

日本と韓国にいた間、トルコから伝えられて来るのは暗いニュースが多かった。PKKは再び武力闘争に転じ、“クルド和平交渉”は頓挫したかのようだ。

今月の19日、イスタンブールのアタテュルク空港に降り立って、市内へ向かう電車に乗ったところ、近くにいた2人の男の会話が少し耳に入って来た。いずれも年齢は35~40歳ぐらい、身なりや話し方からして、そこそこ教養のある人たちに思えた。

1人はディヤルバクルの出身で、最近、同地に行ってきたらしく、現況を訊かれて、次のように答えていた。「問題はありません。もうイデオロギーの時代は終わったと思います。これから良くなるでしょう・・・」。

この時は、『そうならば良いが本当だろうか?』と思った。しかし、それから、各紙の記事を読んだり、友人らの話を聞いたりすると、どうやらディヤルバクル辺りは、実際に意外なほど平穏であるらしい。

人々は、PKKの扇動に乗ることもなく、至って冷静に行動していると言う。遅ればせながら、HDPのデミルタシュ党首も、PKKに武器を置くよう呼びかけ、“和平”の側にいることをアピールしている。11月には再び選挙があるから、HDPも支持者の動向には気を配らなければならないのだろう。これが、「イデオロギーの時代は終わった」ということなのかもしれない。HDPも、いよいよ党のイデオロギーより、川下のニーズに応えざるを得なくなったのか・・・。

しかし、困ったことに、一方で“クルド和平”を主導してきたAKP政権も、この“川下のニーズ”というか“世論”を非常に気にしている。AKPは、選挙で得られる票を拠り所にしているから当然のことだが・・・。

この1か月間に、支持基盤を同じくするMHPが失点を重ねたため、11月の選挙では、なんとか、このトルコ民族主義的なMHPの票を取り込んで、単独政権の復活を目指したいところだが、そうなると余りクルド側に譲歩した姿勢は見せられそうにもない。

昨年、シリアのクルド人組織PYDの勢力が増すと、PKKはこれに呼応する動きを見せ、分離独立路線から撤退していないことが明らかになった。今年に入って、かつての指導者オジャラン氏の呼びかけにも全く応じる気配がなくなり、ついには武力闘争に転じた。AKP政権も、さすがに分離独立の動きを放置するわけには行かなかったと思う。

クルドの人々もその多くは、生活の様々な面で、イスタンブール等の西部地域との結びつきが強くなっているため、分離独立は望んでいないと言われている。PKKのシェムディン・サクック氏が述べたように、「トルコ人クルド人は、シャムの双生児みたいなものだ。無理に切り離そうとすれば、どちらも死んでしまう」と人々も考えているような気がする。

なにより、イデオロギー抜きで、生活を第一に考えるならば、現在の中東の泥沼を見て、トルコ共和国に留まろうとするはずだ。

しかし、彼らがAKPに突きつける要求は一段と厳しくなっているかもしれない。AKPは、これにどう応じていくのだろうか?