メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

ギリシャの経済破綻

ギリシャがいよいよ大変なことになっているけれど、かつてはトルコもかなりギリシャに近いところまで行っていたような気がする。
2004年2月のラディカル紙の記事によれば、2003年まで、過剰に雇用されたトルコの国家公務員たちは、解雇されることもなく、自宅で待機しながら給与を得ていたそうだ。それを、この年に就任したエルドアン首相が、全員出勤するように命じたものだから、座る所もない役人たちが官庁内に溢れかえって、大騒ぎになってしまったらしい。
しかし、この記事を読んで、私が驚いたのは、筆者のテュルケル・アルカン氏が、批判の矛先をエルドアン首相に向けていたところである。アルカン氏は、エルドアン首相がそうやって嫌がらせして古い役人たちを辞めさせたうえで、自分たちに都合の良い連中を任命するつもりなのだろうと推論していた。
この推論が正しくなかったのは、その後の経過を見れば解る。トルコは着実に財政を改善して、10年後の2013年5月には、IMFの債務を完済している。(まだ対外債務は残っているけれど、とにかくIMFの頚木からは脱することができた)
あの頃は、トルコの未来が急に明るく「パァーッ」と開けてきたように感じられたものだ。3月には、ネヴルーズ祭でオジャラン氏の“平和宣言”が発表され、“クルド和平プロセス”が本格的にスタートしていた。

ところが、翌6月には、例の“ゲズィ公園騒動”が勃発する。その後の忌まわしい展開、激しいネガティブ・キャンペーンは、ご承知の通りである。政権支持派のトルコ人じゃなくても、『これって偶然なの!?』と叫びたくなってしまう。
改革を進めて、国力を増強しようとすれば、他国からの干渉を受けるばかりか、国内の旧勢力からも横槍を入れられるのだから堪ったものではない。けれども、改革しなければならないところは、まだまだたくさん残っていると思う。

一昨年だったか、水利庁に勤めていた国家公務員の友人が定年退職した。彼は2000年まで、“ペトロール・オフィス”というガソリンスタンド等を運営する国営会社の職員だったが、2000年にペトロール・オフィスが民営化されると、国家公務員の身分を維持するために移動を申し出て、水利庁に転職していたのである。
民営化された会社に残れば、給与は上がるものの、仕事ぶりの如何によっては解雇される可能性もある。それで多くの職員が移動を申し出たと言うけれど、これではいくら民営化を推し進めても、国家公務員の数はなかなか減らないだろう。
また、国営企業を買収した民間の企業も、多くの職員が移動してしまったら、新たに人材を入れて、一から教育しなければならない。
しかし、「移動しないで皆に残られたら、その方が問題だよ。やたらと解雇するわけにも行かないしな。あの連中を使って経営を成り立たせるのは大変だぜ」なんて言う人もいた。
実際、水利庁へ転職した友人に、当時、「貴方は、ずっと油の仕事をして来たのに、今度は水が相手になって、仕事の内容は解っているの?」と訊いたら、「いやー、出勤したって、新聞でも読んでるだけだから、解らなくても構わないさ」と惚けている。「それで良いの?」と迫っても、「ペトロール・オフィスにいた時だって、似たようなもんだったよ」と意に介していなかった。
トルコの国家公務員は、犯罪でも犯さない限り、首になる心配はないそうだ。いつだったか、共産主義者を自称する友人に、これを確かめてみたところ、「ずっと職場で寝ていても解雇されないから、なんの心配も要らない。これぞ素晴らしい共産主義の理想だ。ワッハハハ」と愉快そうに笑っていた。
こんな人たちが、皆、エルドアン大統領を「独裁者!」などと非難しながら、ネガティブ・キャンペーンに喜んでいる。これでは、エルドアン大統領に批判されるべき点があったとしても、却って解り難くなってしまうのではないか。

「独裁者の宮殿が豪華過ぎる!」とか下らないことばかり論って騒ぎ立てている。
確かに、“強化された大統領制”の為に、憲法が改正される前から、その機能を備えた官邸を造ってしまったのは、なんとも呆れた見切り発車であるし、“トルコ独自の”と謳いながら、構造など“ホワイトハウス”を結構意識しているような気がして、少し辟易させられた。
しかし、“独裁者の宮殿”はないだろう。エルドアン大統領を企業のトップに例えれば、“ワンマン社長”であるのは間違いないけれど、決してオーナーとは言えない。トルコは、個人がオーナーとして君臨できたりする、そんな安っぽい国家じゃないと思う。もちろん、簡単に外国から牛耳られたりもしない。だから、ギリシャのようにはならなかった。 

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