メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トルコは“テロリスト国家”なのか?

6月30日付けラディカル紙のコラムに、オラル・チャルシュラル氏が「トルコは“テロリスト国家”なのか?」という非常に興味深い記事を書いていたので、以下のように拙訳してみました。

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トルコは“テロリスト国家”なのか?:

平行構造〔訳注:フェトフッラー・ギュレン師の信奉者が、司法等の官僚機構の中で地位を得て造り上げたとされている組織〕が、MIT(国家情報局)のコンボイに対して行なったオペレーションの目的は何だったのか? 本当に“違法な武器”に関するものだったのか? それとも、問題はAKP政権だったのか? 彼らは手元のオペレーション関連写真を未だに配信し続けている。彼らのこの熱意は、西欧のメディアと政治から非常に関心を持たれている。それは何故か?

これを問質す理由は、“12月17~25日オペレーション〔訳注:2013年12月にAKP政権の関係者が逮捕された事件〕”によって始まり、段階的に高まって来た「テロを支援している」というプロパガンダ・・・、ISが再び始めたコバニへの攻撃・・・、こういった事柄がこのテーマを改めて議題に上らせているのである。「トルコはISを支援している、彼らに道を用意している」といった言説がまたもや飛び交っている。

皆さんはAKP政権に立腹しているかもしれない。シリアや中東に対する外交政策をこころよく思っていないかもしれない。トルコ国内で“クルド和平プロセス”が継続する最中、PYD〔:北シリアを中心とする左派クルド人の組織、PKKに近いとされる〕を“テロ組織”と糾弾するのは、賢いやり方ではないと考えているかもしれない。「クルド問題は終わった」というような民族主義を煽る発言に反発しているかもしれない。私たちもこれらを批判したことがある。

しかし、情け容赦もないのは困る。「トルコはISを支援している、トルコはテロを支援している」といった言説は際限のない、事実に基づいていないプロパガンダである。

昨日のコラムで、私は、イスラエルの有力な政治家であるエフード・バラクの発言について書いた。バラクは「ISに関して最も正しい、そして現実的な分析は、トルコが行なっている」と認めたうえ、「問題解決のための先ず始めのアドレスはトルコである」と強調した。しかし、興味深いことに、「トルコはテロリスト」と主張する内外のメディアは、このバラクの発言を無視しているのである。

* オラル・チャルシュラル氏の6月29日のコラムによれば、このエフード・バラク氏の発言は、“Russia Today TV”で、オクサナ・ボイコ氏のインタビューに答えたものだそうである。-

ある人物、もしくは、ある政治の流れに対して、いくら反発しているとしても、“正当性”と“事実を語る姿勢”を失ってはならない。

まず始めに、「ISのメンバーが通り過ぎた、手元にその写真がある」「ビデオがある」などと主張する人たちは、これを携えて国会へ行き、政府を問質さなければならない。テレビや新聞紙上の主張で済ませながら、これを元に政治を行なうのは正しくない。手元に情報、記録がある者は、それを関係所管に持ち込んで問質す必要がある。これは可能であるし、彼らにはその力もある。

もちろん、異なる第2の角度から検討してみることも重要だ。トルコにおける“イスラム主義運動”は、常に暴力との間に一線を引いてきた。受けた抑圧にも拘わらず、暴力に訴えることはなかった。これは、運動の創始者であり指導者だったネジメッティン・エルバカン氏が、我が国の政治にもたらした最も大きな貢献の一つと言える。氏はイスラム主義を合法的な基盤に着かせたのである。

また、イスラム主義の名のもとに、暴力がトルコに影響を及ぼすことを最も恐れているのはイスラム主義者である。彼らが暴力を煽ったところで得られるものは何もない。

第3に 、トルコは、シリアにおける“アサド体制に対する反政府勢力”を当初より支援している。トルコだけでなく、アメリカも西欧もこの反政府勢力を支援してきた。最近になって、トルコにいる反政府勢力を教練するために作られたキャンプの筆頭支援者はアメリカである。

第4に、トルコがこの反政府勢力を支援するため、武器や食料の援助を行なってきたのは世界的に知られている。“シリア反政府勢力”が初めて現れた時、この勢力の中には、西欧との協力関係を選ぶ人たちがいたように、強いイスラム主義の流れもあった。

第5に、西欧と特にアメリカは、ロシアがアサドを支援し始めると、反政府勢力に対する支援(この過程には、様々な政治的要因が関わった)を減少させた。あるいは打ち切るに至った。こういった躊躇に力を得たアサドは、反政府勢力に対して、より攻撃的で無慈悲な戦闘を展開するようになった。戦闘の悲惨さは、シリア反政府勢力内のラディカルなグループを強化させた。そして、シリア反政府勢力の穏健派が弱まると、まずアル・ヌスラ、それからISが、影響力のあるアクターとして舞台に登場した。おそらく、反政府勢力へ与えられた武器の一部は、彼らの手に渡ってしまった。

第6に、シリア政府の弾圧であるとか、クルド勢力とISの戦闘、その他諸々の戦闘によって、様々に異なるグループ、集団がトルコの国境を越えて避難してきた。彼らの中には、一般市民と共に戦闘員もいた。最初のコバニ包囲の期間中、負傷した1500人のPYD戦闘員がトルコの病院で治療を受けたことが知られている。おそらく、“自由シリア軍”の戦闘員も他の国境から入って来ている。負傷者を治療する際、彼らをISであるとか、PYDであるとか、自由シリア軍であるとか区別して治療するのは可能なことじゃないし、正しいことでもない。

第7に、大統領の(特にこのテーマにおける)態度、言動、観点を扇動的であると見て、これを批判できるだろう。誤った先入観に基づいていると考えることもできる。もしくは、その目的を問質せるかもしれない。

さらに、もっと様々に異なる角度からの評価、批判も可能だろう。しかし、この中に、「トルコはISを支援している」という主張を裏付けるものは一つもない。

トルコを「テロリスト国家」と宣告し、“IS支援者”と言いながら糾弾して、世界規模のネガティブ・キャンペーンを繰り広げることに、トルコの野党勢力として、どれほどの合理性があるのか?

現実的ではない、両極化を扇動するキャンペーンや絶えず大きくなって行く“悲惨なシナリオ”は、対外的な困難を招来するばかりか、国内においても、和平や問題の解決、そして常識的な思考の妨げになっている。


ラディカル紙のトルコ語原文
http://www.radikal.com.tr/yazarlar/oral_calislar/turkiye_terorist_devlet_mi-1387925