メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

アブドゥルラフマン・ディリパク氏の講演会

昨日、うちからバスに乗って40分ぐらいの所で、イスラム主義者のジャーナリスト、アブドゥルラフマン・ディリパク氏の講演会があったので出かけてみた。
講演会の日程は、5日ほど前、バス停に貼られていたポスターで知った。“ギョヌルデル”という団体が主催するらしい。
開演は7時だったが、6時半には会場に着いていた。会場のある建物は、主催団体“ギョヌルデル”の本部のようである。1階の半分が待合用のロビーになっていたが、そこには、高校生ぐらいに見える女子2人と彼女らの母親と思しき中年女性が所在なげに座っているだけだった。
彼女たちは皆、きっちりスカーフを被っている。「イイ・アクシャムラル(今晩は)」と挨拶したら、中年女性がにこやかに「イイ・アクシャムラル(今晩は)」と応じてから、「会場は2階ですよ。どうぞ」と言う。
それで2階へ上がってみたが、会場にも未だ誰も来ていない。また1階へ降りると、ちょうど上がって来ようとした彼女たちと階段の下で顔を合わせた。念のため、「招待状か何か必要なんですか?」と中年女性に訊いたら、「私たちは会員なんで、招待のメールが来ましたが、自由参加だから構わないはずですよ」と丁寧に答えてくれた。
そこへ主催団体の役員と思われる男性も来て、「ええ自由参加ですよ。まだ早いですが、会場でお待ちになって下さい」と勧められたけれど、少し喉がかわいていたので何か飲もうと思って一旦外へ出た。
5分ぐらいで戻って来たところ、先ほどの彼女たち以外に、もう5~6人若い女性が増えていただけで、会場は未だがらんとしていた。この若い女性たちも全員スカーフを被っている。
一番前の席に座り、本を読みながら待っていたので、後ろの様子は良く解らなかったが、開演10分前ぐらいなって、ぞくぞくと参加者の人たちが入って来た。聴くと、「イイ・アクシャムラル(今晩は)」なんて挨拶している人は何処にもいない。皆、「セーラムアレイキュム」というアラビア語によるイスラムの挨拶だった。
当初は、女性たちも前の方に座っていたけれど、この段階になったら、主催団体役員のアナウンスに促されて、女性陣は全員後方の席へ移ってしまった。これには、ちょっと驚いたけれど、男性陣を見たら、その殆どが垢抜けないむさくるしい男たちで、『まあ、しょうがないか』と思った。男性陣側からそういう要望があったのかもしれない。
最終的に、参加者は200人ぐらい、男女比は7対3ぐらいじゃなかっただろうか。後ろの席に移ってしまったから、あまり良く観察できなかったが、女性たちは、おそらく全員がスカーフを被っていたと思う。しかし、学生風の若い女性も多く、男たちより遥かに洗練されていたような気がする。
後で解ったが、どうやら主催団体は、AKP政権党の下部組織のようなものらしい。ディリパク氏の講演も、フェトフッラー教団の陰謀を退けて、来る6月の総選挙に備えるよう呼びかける内容だったと言っても大きく間違ってはいないだろう。クルド和平やアレヴィー派問題の解決に理解を求めるような話も含まれていた。
特に、アレヴィー派の問題は、この保守的なスンニー派の人たちから理解が得られるかどうかが解決の鍵になるのではないか。説得に努めるディリパク氏らの役割は大きいかもしれない。
講演後、質問に立った年配の女性が、ISISの今後を尋ねたけれど、ディリパク氏は、「私も良く解らない。本人たちも良く解っていないのではないか」とまず答えてから、以下のように続けた。
ISISは、イラクとシリアの混乱に乗じて急激に膨張したため、内部を統轄できるヒエラルキーの構造さえ未だ固まっていない段階ではないのか。そのヒエラルキーを形成する過程で内部分裂を起こして崩壊する可能性もある。・・・・そうなれば良いのだが・・・。
質疑応答の時間も終了したら、男たちだけ、握手と記念撮影を求めて、講演者席のディリパク氏の周りに集まったが、その男たちの群れをかき分けるように、一人若い女性が歩み出ると、ディリパク氏の手元へ彼の著作を差し出し、サインを望んだ。
ディリパク氏は、この愛読者の出現が何よりも嬉しそうだった。少し会話を交わしてから、丁寧にサインして本を女性に返していたけれど、やはり握手はしていなかった。
女性は大学生のようである。凛として、とても美しかった。その所為か、私には、これがトルコの未来を明るくする象徴的な場面のように思えてしまった。

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