メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

メッカへの大巡礼(ハッジ)

メッカへの大巡礼(ハッジ)は、犠牲祭が始まる日に終わるそうだ。トルコから巡礼へ出かけた人たちの日程がどうなっているのか良く解らないが、その多くは、今週中にでも帰路へつくのではないかと思う。

一昨年の10月、トラブゾンからイスタンブールへ帰る飛行機で、この巡礼者の方たちと一緒になった。白い巡礼用の服を着ているので、何処へ行く人たちなのか直ぐに解ってしまう。イスタンブールでトランジットして、メッカへ向かうのである。

私の隣の席も巡礼の老夫婦だった。席につこうとしたら、やはりそこで立ち止っていたおじいさんが、私に半券を見せながら、「私らの席はここでしょうか?」と訊く。私は通路側だったので、まず、おばあさんに奥の窓際に入ってもらい、おじいさんは真ん中の席に座った。

おじいさんは、人の好さそうな小柄な方で、席につくと私の方を振り向いて、「すみませんねえ、私ら飛行機に乗るのが初めてなもんで、これ、どうやって着けるのか解らんのですよ」と言いながら、安全ベルトを示した。本当に申し訳なさそうな様子で、こちらが恐縮してしまう。

「私が着けてあげましょう」とお答えし、おじいさんのベルトを手にとって見たものの、向きが逆になっているので、どうも勝手が違う。まごまごしていたら、隣のおばあさんが「こう着けるんですよ」と言って笑った。見ると、もうしっかりベルトを着けている。ちょっと得意そうにしていたけれど、とても愛嬌のある品の良い笑顔だった。

しかし、飛行機がいよいよ滑走路に入って加速し始めると、それまで悠然と構えていたおばあさんは悲鳴をあげ、飛行機が上空に達するまで、頭を抱えて泣き叫んでいた。おじいさんは、「おい、しっかりしろ」と妻を労わりながら、また申し訳なさそうに私の方を振り返った。

飛行機が上空を航行している間、おばあさんは平静を取り戻していたけれど、着陸態勢に入ったら、また同じことを繰り返した。ずっと頭を抱えたまま、窓の外を見なければ良かったのに、何となく気になって、つい見てしまうらしい。確かに、初めて飛行機に乗ったおばあさんにとって、眼下に見えるイスタンブールは、とても恐ろしかったに違いない。

御夫婦とはイスタンブールで別れたが、あれからメッカへ行ってトラブゾンに帰るまで、少なくとも3回は飛行機に乗ったはずである。おばあさんは大丈夫だったろうか?

それにしても、こういったお年寄りばかりの団体を引率している添乗員の仕事は、なかなか大変だと思った。無事、日程が終了するまで、様々なトラブルに対応しなければならないだろう。

今頃、メッカで、とりあえず巡礼の行事だけは終了して、彼らはホッと胸を撫で下ろしているかもしれない。