偏見はなるべくなくしたいけれど、私のように特に宗教を信じていない人間が、宗教について何か考えても、なかなか公平な見方には至らない。とはいえ、宗教を信じている人たちも、こちらをそれほど公平な視線では見ていないと思う。だから、多少偏見が残るのは仕方ないとして、まずは相手に敬意を表すよう努めれば良いかもしれない。
それにしても、日本や西欧におけるイスラムへの偏見は、甚だしいような気がする。イスラムをテロリストのイメージで捉えている人もいるだろう。
ところが、私が懐いている偏見でイスラムを見た場合、『あれほど平和な宗教もなさそうだ』と思えてしまうのである。そして、これまた偏見を承知で言わせてもらえれば、この平和という代物は、“ご都合主義”と“事なかれ主義”によってもたらされるのではないか。
既存の権威に対する抵抗として生まれたキリスト教と違って、イスラムは元々為政者の側に立っているように見える。権威に対する反抗は悉く戒められている。
異教徒が支配する社会で、イスラムの信仰を実践することにより、身に危険が及ぶのであれば、“タキーヤ”と言って、その信仰を隠すことも認められている。だから、異教の権威・為政者に抵抗して殉教する必要など全くないらしい。しかも自殺も固く禁じられている。これでは、“自爆テロ”など沙汰の限りとしか考えられない。
イスラムの聖戦は、あくまでもイスラムの社会が異教徒の攻撃にさらされた時の“防衛戦”であるという。
現在、西欧出身のムスリムたちが、“ISIS”なる組織に加担して凶行を繰り返している背景には、多くの識者が指摘しているように、ムスリムである為に西欧の社会で受けた差別等があるのではないかと思う。
先日お伝えした「 マイノリティの最も真実的な試験」という記事で、エティエン・マフチュプヤン氏は、トルコのマイノリティが、イスラムを見下すことによって自尊心を回復したと説明している。西欧のマイノリティであるムスリムたちは、キリスト教を見下すことによって、自尊心を回復することが可能だっただろうか？
“タキーヤ”によって自らを偽ろうにも、心に受けた傷は覆い隠せないほど大きかったかもしれない。でも、何とか自分を偽る方法を見つけるべきだった。
１３世紀のイスラム神秘主義者メヴラーナは、「あるがままに自分を見せよ」と言ったらしいけれど、この発想は余りイスラム的じゃないような気がする。また、そんな理想が実践できるようにも思えない。
メヴラーナから８０年ほど後れて、遠く離れた日本に生まれた吉田兼好は、徒然草の 八十五段に、「人の心すなほならねば、偽りなきにしもあらず」と書き、次のように結んでいる。
「・・・狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり。悪人の真似とて人を殺さば、悪人なり。驥を学ぶは驥の類ひ、舜を学ぶは舜の徒なり。偽りても賢を学ばんを、賢といふべし。」
私はこの八十五段を読むと、良く解らないまま、なんとなく安堵する。そして、少なくともトルコのムスリムたちであれば、この“安堵”を理解してくれるのではないかと期待してしまうのである。
