メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

クルド和平の影響

 トルコの軍は、クーデターを起こしても、早めに民政移管して、政権に居座ることはなかった。

しかし、民主的な選挙を実施すれば、保守派ジャーナリストのアヴニ・オズギュレル氏が論じたように、「トルコ国民の65%は、右派もしくは宗教色の強い保守政党に票を投じ、35%は政教分離の原則を鮮明に打ち出した政党を支持して来た」という結果になった。

 

オズギュレル氏は次のように分析している。

政教分離に関しては決して譲歩しない軍部も、80年の間に必要あるいは不必要な政治への介入を行ったことで、納得し難い批判にさらされたという考えから、“適当なところでの和解”を求め始めている」

クーデターでAKPを潰したところで、民政移管すると、やはり同じような“宗教色の強い保守政党”が政権に就いてしまうから、もう軍は無駄に政治介入などしないと思うが、仮に、“ホメイニ革命”のような事態になっていれば、その限りではなかったかもしれない。しかし、今後トルコに、そういったラディカルなイスラム化が起こる可能性はないだろう。

あれだけ脱宗教的な政教分離主義を掲げていたCHPが、一時的とはいえ、ギュレン教団と協力するかのような姿勢を見せてしまったのだから、「政教分離イスラム」という対立構造も意味を成さなくなったのではないか。

一方、今回の選挙では、“不正疑惑”もさることながら、“クルド和平のプロセス”が票に影響を与える大きな要素になっているような気がする。

オズギュレル氏は、2004年の記事で、右派もしくは宗教色の強い保守政党に投票する国民の割合を“65%”としていた。確かに、2011年の国政選挙の結果を見ても、AKPが約50%、トルコ民族主義的な傾向の強い保守MHPが約13%、イスラム守旧派は2%であり、合わせればちょうど65%になる。

MHP支持者の中には、“クルド和平のプロセス”を嫌がる人たちが少なくない。未だに「オジャランを吊るせ!」と叫ぶ者もいる。MHPの票も取り込もうとして来たAKPは、これまで選挙の前になると、あまりクルド問題を持ち出さなかったように思えるけれど、今回は“クルド和平のプロセス”を前面に掲げている。これはどう影響するだろうか?

デモ騒動の方は、政教分離主義者とアレヴィー派で、ほぼ上限が35%ぐらいと見られ、保守層に影響を与えるとは思えないが、“クルド和平のプロセス”は、AKPの得票率を占う上でも、かなり重要じゃないかと思う。

しかし、トルコの保守層が、時代の変化に合わせて行く姿勢にも感嘆してしまう。10年前は、殆どの人たちが、「オジャランを吊るせ! 絶対に許すな!」と騒いでいたのに、最近、オジャランの釈放などが議論されても、「平和の為なら・・・」なんて言う人がいる。

やはり多くの人が平和を望んでいるのだろう。なんとか実現されるように祈りたい。

 

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