メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

何があってもエルドアン嫌いを止められない人たち

87~88年、韓国に留学していた頃、ソウルの語学学校の先生から聞いた話だが、当時、韓国の人たちは、車を運転する際、必ず免許証の裏に5千ウォン札を忍ばせていたそうである。
交通違反を取締る警察官は、運転者から免許証の提示を求め、当然の如く5千ウォン札を抜き取る。これが警察官の相当な収入になっていたらしい。
語学学校の先生は良家のお嬢さんで、彼女の知り合いだか親族だかの大学教授が、実際に体験したという話を語っていた。
その大学教授は、初老に至って初めて免許証を取り、勇躍、自分でハンドルを握って街に繰り出したところ、あいにく違反の取締りに引っ掛かってしまう。提示を求められ、免許証を差し出したが、世間知らずの教授は、5千ウォン札など忍ばせていない。警察官に仄めかされても、何のことだか解らない。驚いた警察官は、自ら5千ウォン札の“常識”を説明し、教授の無垢な人柄に感動したと言って、そのまま見逃してくれたという。
おそらく教授は、それまで運転手付きの車にでも乗っていたのだろう。語学学校の先生も、教授に負けない世間知らずで、地下鉄の乗り方さえ良く解っていなかった。多分、彼女も教授の話を聞いてとても驚き、話のネタにしていたんじゃないかと思う。
トルコの警察官も、かつては、これと大して変わらなかったようだが、最近は大分改善されたらしい。今の韓国はどうだろうか?
ところで、トルコには、個々の警察官が金を受け取らなくなったのを“改善”と看做していない人もいるから驚く。
先月、知り合った運転手さんは、「昔は、それでも警察官個人の収入になっていたのに、今や罰金は全て国に巻き上げられて、エルドアンの懐に入ってしまう」と怒っていた。この人は、アレヴィー派なので、熱心なスンニー派イスラムの主流派)のエルドアン首相を激しく嫌っているのかもしれないけれど、その理屈は余りにも荒唐無稽で唖然とした。
彼らの多くは、CHPを支持していて、CHPの現党首クルチダルオウル氏もアレヴィー派と言われている。しかし、旧来のCHP支持者である友人は、一昨年だったか、「アタテュルクが創った政党CHPの党首がアレヴィー派になってしまうなんて・・・。アレヴィー派が党首じゃ大多数の支持を得られるわけがない。これもアメリカの陰謀だろう」と毒づいていた。
共和国になってアレヴィー派の教団を閉鎖させたのは、アタテュルクじゃなかったかと思うが、アレヴィー派の多くはアタテュルク主義者として、CHPを支持して来た。熱心なスンニー派より、政教分離主義のCHPが安心だったのかもしれないが、ちょっと皮肉な感じがする。
けれども、アレヴィー派の問題を解決できるのは、今のところ、大多数のスンニー派を説得できるAKPをおいてないだろう。AKPには、少なくとも問題解決の意志はあるようだ。
しかし残念ながら、現在のトルコは、何があってもエルドアン嫌いにならない多数派の民衆と、何があってもエルドアン嫌いを止められないアレヴィーや知識人等からなる少数派が激しく対立している状況じゃないかと思う。

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