メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

カスムパシャの暴れん坊

エルドアン首相を嫌う政教分離主義者(あるいは“白いトルコ人”)たちは、何故、あそこまで激しい嫌悪感を懐くのだろう? 
イスラム的な傾向が見られると言うのであれば、これはギュル大統領を始めとする他のAKP主要メンバーにも共通しているはずだ。
しかし、例えば、ギュル大統領などは、それほど嫌悪されている様子もない。強面のエルドアン首相に比べて、ギュル大統領は、その温厚な雰囲気が好意的に見られているのかもしれないけれど、かつて軍部のクーデターを熱望していた人たちが“強面”嫌いというのも、何だか変な気がする。
エルドアン首相には“カスムパシャの暴れん坊”という綽名がある。カスムパシャは、エルドアン首相が生まれ育ったイスタンブールの下町で、東京の浅草とか錦糸町、亀有といった感じじゃないかと思う。
この綽名は、支持者たちも好んで使っているが、反対派は、この“下町っぼい品の無さ”が嫌いらしい。つまり、“イスラム的”“強面”“下町っぽい”の三点セットで嫌悪感も倍増ということじゃないだろうか。
それから、エルドアン首相は、英語が余り話せないので、これも恐らく大きなマイナス要素になっている。トルコでは、歴代の首相や大統領の多くが、英語もしくは独語などに堪能だった。現在のギュル大統領も、非常に流暢な英語を話す。
その他、10年前にエルドアン首相が就任した頃は、ギュル氏との比較で、随分馬鹿々々しい批評もあった。両氏の夫人の着こなしを比べた場合、エルドアン首相のエミネ夫人は野暮ったくて、酷く見劣りがすると言うのである。
確かに、やたらと金ピカで、あまりセンスの良さは感じられないかもしれない。私も冗談に「成金の有閑マダムみたいだ」なんて揶揄したりしていた。しかし、新聞のコラムで論じるような話題じゃないだろう。それを少なからぬ識者たちが大真面目に論じていたのは、今、思い出しても馬鹿らしい感じがする。
“又聞き”の“又聞き”ぐらいだから、少々眉唾だけれど、両夫人の比較では、こんな話もある。エミネ夫人が、外遊先などで何かプレゼントされても、価格を確かめて、「そういう高価なものを個人的には頂けません」と断り、国への寄進として処理するのに対し、ギュル大統領のハイリュンニサ夫人は、そのまま受け取ってしまったりするそうだ。
しかし、これが事実とすれば、多分、結婚する前にイスラム運動の婦人部で活躍していたエミネ夫人と異なり、ハイリュンニサ夫人にはそういった社会経験がなかったことに起因しているのではないだろうか。
いずれにせよ、エルドアン首相が、人々の間で根強い人気を誇っているのは、反対派が嫌悪する“イスラム的”“強面”“下町っぽい”の三点セットにあるんじゃないかと思う。 人々は、“カスムパシャの暴れん坊”と“ちょっとセンスのない下町の肝っ玉母さん”に拍手喝采している。
反対派は、これを理解しない限り、選挙で過半数を獲得するのは難しいような気がする。