メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

東洋の日本・中国・韓国

一昨日(25日)、全豪オープン女子テニスで、中国の李娜選手が栄冠を手にした。2011年、李娜選手が全仏で優勝して、テニス四大大会の一つを初めて東洋人が制した“快挙”には、テニスのルールさえ良く解っていない私も、大いに感動した。
李娜選手が如何にも東洋的な美人であるのも嬉しかった。美人と言えば、シャラポワ選手が持て囃されているけれど、彼女の何処が“美人”なのだろう? 身長が188cmって、田中将大投手と同じじゃないか!
しかし、世界が狭くなって、人々の交流がどんどん進んで行けば、そのうち、モンゴロイドとかコーカソイドといった人種的な特徴も曖昧になってしまうような気がする。だから“東洋人”に拘るのは時代遅れかもしれないが、やはりイスタンブールの街角で、東洋人の顔に出会ったりすると、まず微笑んでしまう。
向こうも、大概、微笑んでくれる。韓国の人であれば、「韓国語お上手ですねえ」とか言われて盛り上がったりする。中国の人も、「ウォシーリーベンレン(私は日本人です?)」だけで喜んで握手してくれる。残念ながら、微笑み率が最も低いのは日本人同胞だ。まあ、日本人は少しシャイなところがあるから仕方がない。それより、中国や韓国の人たちに微笑んでもらって、せっせと友好に努めよう。
ところが、東洋における隣人付き合いは、今や最低の状態であるらしい。韓国ばかりでなく、中国について書かれた記事にも、下品で侮辱的な表現が目立つ。
確かに、現在、中国の国家体制やその経済発展には、相当な矛盾が生じているようだ。人権侵害の問題もある。韓国と同様、中国側の反日報道も下品で侮辱的かもしれない。しかも、韓国の人たちほどには、日本に一目置いてくれていたわけじゃないような気がする。でも、その巨大な潜在力を考えたら、友好的な関係を続けて行かなければならないだろう。
中国の社会では女性が強いと言われている。これは中国の力の源泉になっているばかりでなく、とても魅力的な要素じゃないかと思う。こういった要素には目を向けないまま、人権侵害等、何の考慮もしないで一方的に非難する人がいる。
例えば、中国の国家が行なってきた重大な人権侵害の一つは、「一人っ子政策」じゃないだろうか? 以下の駄文に登場する福建省の友人は、子供を2人作ってしまった為、警察に呼ばれて強制的にパイプカットされてしまったそうだ。国際世論が、こういった人権侵害を非難しているのは聞いた覚えが無い。利害が一致していれば何も言わないらしい。  この福建省の友人が日本へ渡ったのは91年だった。当初、言葉も殆ど解らないので、建設現場で土方として働いていたら、ある日、監督から「何か特技はないか?」と訊かれ、測量の技術を見せたところ、直ぐに測量士として高給で採用された為、それほど苦労はしなかったという。友人はかなり運が良いほうだったかもしれない。
日本では、80年代にも、「留学生倍増計画」というのがあったと記憶している。首相の中曽根さんが、「日韓新時代」を謳い、韓国へ行って「アンニョンハシムニカ」なんて愛嬌をふりまいていた。 でも、政府の計画通りに、留学生は増えなかったようだ。日本の大学を卒業しても、日本の企業で活躍できる保証はないし、差別があって留学生活も快適とは言えなかったに違いない。 
私が韓国から戻ってきた89年でも、韓国人の留学生が東京でアパートを借りるのは大変だった。留学生が増えなかったのは、政府の所為でも何でもない。当時の日本の社会が受け入れるレベルに達していなかっただけだと思う。
今はどうだろうか? 多少グローバル化が進んで、受け入れ態勢は少し良くなったらしい。その代わり、80年代に比べて日本の魅力が半減してしまい、優秀な留学生はなかなか来てくれないそうだ。
80年代の「留学生倍増計画」が巧く行っていれば、中国や韓国ともっと友好を深めることが出来ただろう。それが、差別的な態度で恨みを買い、謝罪も恩恵も小出しにした挙句、恩を仇で返されているような気がする。
あの80年代には、もっと出来ることがたくさんあったはずだ。それを先送りしているうちに繁栄は終わってしまった。やって置けば、今、これほど苦境に立たされなくても済んだかもしれない。 
さて、先週、久しぶりにヨーロッパ側へ渡り、韓国人の友人崔さんと会ったので、例の「韓半島の統一」という夢はどうなのか訊いてみた。でも、現実主義者の崔さんは、つまらなそうに、「こっちはアメリカが許さないだろうし、向こうは中国が許さない。どうやって統一するんだよ」と答えただけだった。
「朴大統領の反日は?」と訊いたら、「日本が右傾化しているから牽制しているんだろう。俺も最近の日本は少し変だと思っている」と、やはりつまらなそうに話していた。あの冷めた現実主義者の崔さんまで日本の右傾化を懸念している。これはちょっと深刻な事態になってきた。
安倍首相は思い切って靖国神社を参拝したのだから、もう一方にも思い切った一歩を踏み出してもらいたいが、先日は、太地のイルカ漁の問題でも、国際世論に対して、弁明に大童だったそうだ。なかなか大変らしい。
太地のイルカ漁は、毎年のようにトルコでも報道されている。私が聞いた限りでは、否定的な報道ばかりで、擁護してくれる声など出ていない。なにより、“血に染まった海”の映像が、忌まわしいイメージを作り上げてしまっている。あれでは、如何なる弁明も難しくなってしまう。
私も、鯨食について、とやかく言われるのは嫌だが、あの中国でさえ、オリンピックの時は、犬食を隅へ追いやったそうだ。韓国も、ソウルオリンピックでは、同様の“配慮”を見せていた。もちろん、中国も韓国も犬食を止めたわけじゃない。あまり目につかないようにしただけである。
トルコでも、近年、犠牲祭の行事に対する規制が厳しくなって来ている。都市部の場合、指定された屋内の施設以外で、生贄を切ることは禁止された。これも「残酷だ」という西欧の批判に“配慮”した結果に違いない。

 だから、日本も鯨食を続けながら、それが目立たないようにすれば良いわけだが、長年に亘り、“イルカ漁”を伝統文化として続けて来た太地の人たちは、なんと思うだろうか? 数頭のイルカを生け捕りにするシンボリックな行事で、伝統を受け継いで行くようなやり方は取れないだろうか?
あちらを立てれば、こちらが立たずで、世の中は本当に難しいけれど、国際社会でもっと巧く立ち回れないものかと思う。  3年前、上記の駄文に、「韓国は独立戦争を経ずに建国されてしまったため、国家の正統性といったようなものを“反日”に求めざるを得なかった・・・」と書いた後で、これをネタに何人か日本人の友人とも話し合ったが、大概の場合、「韓国は自力で独立も果たせず情けない」という方に話が流れてしまい、私もこれに同調した。
しかし、昨年、“クルド和平のプロセス”に進展があった際、数年前まで“クルド人の独立”を支持していた韓国人の友人と会って話したところ、彼は「クルド人にそれほど独立の意志はなかったということかなあ・・・」と残念そうに言いながら、韓国の独立について、驚くべき見解を明らかにした。
「韓国が日本の統治下にあった時も、民衆は特に独立したいなんて思っていなかったかもしれない。ところが、日本が間違ってアメリカと戦争して負けたものだから、何だか訳も解らない内に独立した・・・」と言うのである。
その時は、ただ驚いてしまったが、今、改めて考えてみると、“韓国は自力で独立を達成できなかった”というより、“日本が間違ってアメリカと戦争して負けた”ところが強調されていたようで興味深い。
「韓国は自力で独立も果たせず情けない」などと他人を哀れむ前に、私たちも「アメリカと戦争して負けた(それも、こてんぱんに叩きのめされた)」という事実を噛み締めるべきじゃないかと思った。
何故、アメリカと戦争したのかと言えば、東洋での覇権を争ったからに違いない。日本は、東洋で覇権国になろうとしていた。今も、その覇権主義に対して、執拗に“反省”が求められている。
韓国はともかく、自ら覇権主義の塊みたいな中国に、そんなこと言われたくない気もするが、現在の中国の覇権主義を批判しようとするなら、まず自分の過去の覇権主義を何度でも反省して見せなければならないかもしれない。
韓国に対しては、なによりもその独立を奪ってしまった歴史を反省しなければならないだろう。韓国にとって、これは大変な屈辱だったと思う。
大阪にいた97年~98年にかけて、韓国の「朝鮮日報」を購読していたことがある。当時、朝鮮日報には、趙甲済氏の「내 무덤에 침을 뱉어라(俺の墓に唾を吐け)」という、朴正熙大統領の生涯とその背景にあった韓国の歴史を描いた作品が連載されていて、私は毎日欠かさずこれだけは(というより殆どこれだけ)読んでいた。
その後、全8巻として出版された同作品を、2003年に大久保の韓国書店で購入したけれど、連載中に私が読んでいた部分は僅か3巻までに過ぎない。続きを読もうかと思いながら手がつかずにいたら、最近は韓国語をかなり忘れてしまい、読むのもままならない状態となっている。
しかし、私たち日本人にとって、この作品の最も興味深いところは、その 3巻の部分じゃないだろうか? ここには朴正熙氏が生まれてから、日本の敗戦によって独立を迎えるまでの“日本統治下の朝鮮”が描かれている。
これを読むと、『我々日本人と韓国人は、良くも悪くも36年の歴史を共有していたのだなあ・・・』という感慨にとらわれてしまう。この“歴史の共有”は、一方的に日本が望んだ為に実現した。これを考えたら、韓国との友好関係を疎かにすることは出来ないような気がする。
98年に、この作品の一部を拙訳してみたことがあるので、次回、ここで紹介したいと思う。

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