メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

オザル大統領の夢

ソウルに滞在していた頃、88年の末だったと思う。韓国で長い間事業に携わっていた日本人の方にお話を伺ったところ、その方は「全斗煥氏には夢があった」としきりに懐かしんでいた。現職の盧泰愚大統領には、その夢が感じられないと言うのである。
当時は、全斗煥氏の業績について良く知っているわけじゃないし、そう言われてもピンと来なかったけれど、91年にトルコへ来て、最晩年のオザル大統領が、クルド問題の解決に取り組む姿を見ていたら、なんとなく『この人には夢が感じられるなあ』と思い、全斗煥氏にも同じような雰囲気があったのかと考えた。
オザル氏と全斗煥氏は、いずれも1980年に起きた政変により、ほぼ棚ぼた式に政権を手に入れた。それまで全く政治家としての経験がなかった点も共通している。おそらく両人とも、政変が起こるまで、自分にそういう転機が訪れようとは思っていなかったのではないか。政治に関してはズブの素人だったと言っても良いだろう。
その為、選挙やら何やら、あまり深く考えずに、夢の実現に向けてどんどん突き進んで行けたのかもしれない。
今から振り返っても、当時のオザル氏の発言には驚くべきものがある。「トルコというのは民族の名ではない」とか「国名がオスマン共和国であれば何の問題もなかった」とか・・・。連邦制まで議題に乗せようとしていた。
このオザル氏に比べると、現在のエルドアン首相は如何にもプロの政治家である。大学在学中から政治を志したエルドアン首相は、非常に現実的で、無闇に夢を追ったりはしない人だと言われている。
選挙に勝たなければ、政権を維持できなくなるから、こちらへの気配りも怠っていない。3月の地方選挙の人選にも相当腐心したそうだ。
この地方選挙には、AKPの連続4選禁止の党綱領に引っ掛かって、来年の国政選挙に出馬できない大物議員が多数候補になっている。CHPの牙城と言われるイズミルに乗り込むユルドゥルム前運輸相などがその代表である。
『前運輸相なら、中央とのパイプも太いし、イズミルの公共事業も活性化するのでは・・・』と選挙民に思わせるのが狙いらしい。
“真っ白いトルコ人”のジャン・パケル氏は、あの番組で、「トルコの民衆は、自分たちに利益をもたらさない政党には投票しない。・・・とても政治意識の高い民衆だ」というような評価も下していた。
これに比べたら、何だか東京都知事選の様相が情けなくなってしまう。トルコにも、タレント議員が全くいないわけじゃないけれど、少なくとも重要な知事選になれば、実務派の仕事ができそうな候補しか出て来ない。トルコの人たちは、あまり安っぽい夢に引っ掛からないのだろう。
さて、エルドアン首相はどうなるのか? 来日中の記者会見でも“連続4選禁止”を覆すつもりはないと言明したそうだ。その為、憲法改正まで必要としない、議会で決められる法改正の範囲で、大統領の権限を高めてから、今年の大統領選に出馬する可能性を指摘する識者もいる。この場合でも、党綱領を勝手に変えるよりは良いのではないかと思う。

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