メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トルコのエスタブリッシュメント

 インターネットから視聴できる24TVという政権寄りメディアの番組で、トルコにおける有数の国際派知識人であるジャン・パケル氏が、今回の“疑獄事件”について語っていた。
まず、司会者から、「この事件について、“白いトルコ人”の考えを聞きたい」と切り出された為、パケル氏は、“白いトルコ人”の由来から話始めた。
一般的に“白いトルコ人”は、西欧型のライフスタイルを身につけたエリートのトルコ人と解釈されているけれど、パケル氏によれば、トルコ共和国がこの“白いトルコ人”を創造して守り続けてきたそうである。
共和国発足当時、トルコ人の殆どは農民だったため、共和国の創業者らは、仕事が出来る西欧志向型の階層を作り出す必要があった。そして、創造された“白いトルコ人”を85年近くに亘って守ってきた。関税により、また彼らが製造した粗悪品を国家が買い上げ、競合相手を妨害することにより守ってきた。
これが、80年代、オザル政権の誕生によって揺らぎ始め、国家の庇護に依らず自力で勃興した中産階級が姿を現し始める。この新しい中産階級が支持して政権に押し上げたのがAKPであり、“白いトルコ人”は、彼らにその座を奪われつつある・・・・。
もちろん、パケル氏も“白いトルコ人”と看做されているが、おそらくパケル氏の家系は、共和国によって作り出された“白いトルコ人”ではないだろう。オスマン帝国以来の、ひょっとすると共和国の創業にも関わった一族であるかもしれない。いずれにせよ、純白、真っ白いトルコ人と言っても良いのではないかと思う。
こうして見ると、上述の発言は、“創造された白いトルコ人”、もしくは“白くされたトルコ人”“白くなりたいトルコ人”に対して、少々残酷であるような気もする。
教団の関与については、「何と愚かなことを・・・」という感じで一蹴していた。選挙でAKPを政権に押し上げたのは民衆であり、彼らはAKPが不満になれば、選挙によってAKPを下野させることも出来る。つまり、AKPは彼ら民衆の手の中にあると言って良い。この政権を手放して、教団を支援する民衆など何処にもいない。これが解っていなかったとしたら、愚かとしか言いようがないそうだ。
軍が動く可能性もない。「下級将校の動向までは解らないが、軍のトップクラスには絶対ない」と断言していた。
トルコでは、過半数の支持を得ていた政権が、経済危機に陥るや、あっと言う間に民衆から見放されてしまったことが何度かあるものの、現在、経済危機という状況はなく、何よりAKPがこの10年間で成し遂げた経済発展の影響は大きい。民衆は未だAKPを見放したりしないだろうと言う。
“白いトルコ人”のメディアも、影響力は持っていない。かつて影響力があるように思えたのは、軍の後ろ盾による。民衆は新聞の報道などに影響されない。彼らがAKPを支持しているのは、医療制度の改革等、社会の中で実際に見ることが出来る成果を評価しているからだ。等々・・・。
と言いながら、パケル氏は政権寄りのテレビに出演して、こうして持論を展開している。義兄のメフメット・バルラス氏も、政権寄りサバー紙の主筆として、毎日のように政権を擁護する記事を書いている。
この人たちは“真っ白いトルコ人”であり、“トルコのエスタブリッシュメント”と言っても過言ではないかもしれない。
確かに、多くの民衆がAKPを支持しているのは間違いないだろう。パケル氏は、「国家の抑圧を嫌う民衆がAKPを支持している」というような説明を試みていた。でも、それだけではないような気がする。国家の権力構造、戦略そのものにもかなりの変化が起こっているのではないだろうか?

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