メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

AKP対教団?

トルコ民族主義には、二通りあると言われ、ひとつはかなりイスラム色の濃い民族主義。これを主張する人たちは“栄光のオスマン帝国”への郷愁を強く懐いていて、MHP(民族主義行動党)の支持者が多いものの、当初よりAKPを支持して来た人も少なくない。

もう一つは、イスラム色が殆どない民族主義で、こちらは“オスマン帝国”への郷愁が全くないどころか、これを強く否定している。彼らはアタテュルクと共和国をこよなく愛し、自分たちの源として、遥か昔の“突厥帝国”に仄かな郷愁を感じているようだ。支持政党はCHPである場合が多い。

先日、フェースブックに、後者の典型と思われる知人が、「“AKPのファーストイレブン”と“(フェトフッラー・ギュレン)教団のファーストイレブン”」などという洒落にもならないリストの画像を貼り付けていた。

“AKPのファーストイレブン”は、もちろんエルドアン首相から始まっているが、名前を記すのも嫌なのか“RTE(レジェプ・ターイプ・エルドアン)”と頭文字で済ませている。

2番目以下は次のように続く・・
2-アキット新聞(イスラム色の非常に濃い新聞) 
3-追従メディア 
4-アブドゥッラー・ギュル(大統領) 
5-大臣たち 
6-MIT(国家情報局) 
7-民族資本 
8-スポーツ界 
9-ルム(トルコのギリシャ人) 
10-不正な資本 
11-バルザーニとPKK(要するにクルド人

“教団のファーストイレブン”は以下の通り・・・ 
1-フェトフッラー・ギュレン 
2-ザマン新聞 
3-サマンヨルTV 
4-国内の学習塾 
5-国外の学校 
6-裁判所 
7-メフメット・バランス(反政権的な新聞記者) 
8-アメリカ 
9-イスラエル 
10-グローバル資本 
11-警察

そして、欄外に「異なる極は互いに引き合うが、同じ極は互いに押し合う」なんて断り書きを付けている。自分たちのファーストイレブンも書いて置いてくれたら良かったのに残念だ。まあ、トップはアタテュルクに間違いないと思うが・・・。

いずれにしたって、実に下らない“遊び”で、論じるのも馬鹿々々しいけれど、いくつか興味深いところもある。

まず、“AKPのファーストイレブン”に、ギリシャ人やクルド人も入っているのが恐ろしい。もともと排外主義的な傾向はあったが、段々激しくなっているような気もする。

次に、同じ極と断っているものの、民族資本とグローバル資本なら、両極と言えるのではないだろうか? 

一時期、「AKPと反AKPの対立は、イスラム政教分離の対立ではなく、クローバル派と民族派の闘い」という説が論じられた。しかし、2009年以降、AKPは、イスラエルアメリカと齟齬をきたすようになり、この説は少し怪しくなっていた。

AKPは、グローバル派じゃなくて、もともと“ネオ・オスマン主義者”だったとすれば、すっきりするかもしれない。そもそもAKPの母体となった“ミッリ・ギョルシュ(国民の思想)”にも、そういうネオ・オスマン主義的なところは見られたようだ。

それが、当初は、明らかにグローバル派と目されていたフェトフッラー教団と手を結んでいた為、話がややこしくなってしまったけれど、今は双方が元の鞘に戻ったらしい。しかし、オスマン帝国にもグローバルな傾向はあったから、AKPがグローバル主義者と思われたのは、それほど間違いでもなかったのだろう。

それから、もう一つ興味深いのは、エルドアン首相を“RTE”と頭文字で表しているところだ。かつてクルド人運動家たちは、“トルコ共和国”と言いたくないので、“TC”と頭文字で呼んでいたそうである。

このように、嫌いなものを頭文字で呼ぶやり方もあるみたいだが、通常は、好ましい対象を頭文字で表す場合が多いように思える。

例えば、トルコ共和国を“TC”として、これを自分の氏名の前に付けたりするのが、6月の“ゲズィ公園騒動”以降、AKPに反対する共和国主義者の間で流行っている。

年末、カドゥキョイに出掛けたら、ズィラート銀行の支店が、“トルコ共和国ズィラート銀行”の意で、“TC”と表記されている看板を下ろそうとして、大騒ぎになっていた。

共和国主義者と思われるモダンな服装の御婦人が先頭に立ち、「トルコ共和国を無くそうとするのか!」と金切り声を上げていた。御婦人、風体はモダンだが、頭の中身はあまりモダンじゃないらしい。

結局、支店側も看板の張替え作業を諦めてしまった。双方で、なんと無駄な労力を費やしているのか・・・。