メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

角さんとエルドアン首相

いつだったか、わりと保守的な友人家族の集まりに呼ばれていて、そこで長女の義父に当たる方とちょっと議論になってしまった。
友人の家族は、敬虔なムスリムで保守的だが、長女の婿やその家族は、かなり濃い政教分離主義者なのである。長女の結婚式では、スカーフを被った女性も多い新婦の親族らが式場の一方に集まって、お茶やコーラなどを飲んでいたのに対し、新郎の親族たちはもう一方のテーブルで、ワインを開けて楽しんでいた。
最近、トルコでは、こういうカップルも増えているのではないかと思う。彼らを、保守的でイスラム的な家族とか、政教分離主義の家族とか言って色分けするのは、もう難しいだろう。
さて、その政教分離主義者の義父との議論だが、「日本人の君は、エルドアン政権をどう思っているのか?」と訊かれたのが発端だった。彼によると、エルドアン政権のもと、トルコはどんどん後退し、何もかも悪くなったそうだから、殆ど噛み合う所がなかった。
私の後ろには、家族の保守的な面々が7人ほど並んでいたが、皆、押し黙って私たち2人の議論を傍観している。
そうやって平行線のまま、15分ぐらい話してから、義父の方は引き上げる時間になったと言って席を立ち、私も家族の面々と玄関まで出て見送った。
そして、客間に戻って来ると、面々の一人は私に抱きつきながら、「マコト! よく言ってくれたよ。あの人が言う“無知な民衆”って、つまり私らのことだろ。もう嫌になってしまうね」なんて喜んでいるのである。
「それなら、貴方も何か言えば良かったじゃないですか?」と突っ込みを入れたら、「いやあ、親族の年長者に対する敬意と言うものがあるでしょ」とニヤニヤ笑っていた。
義父の方は、面々の前で持論を展開すると、皆、黙って聞いているので、ある程度は賛意が得られていると思っていただろうか? 政教分離主義者の知識層の中には、それで賛意が得られたと勘違いしている人も少なくないように思えるが・・・。
人々は、『“無知な民衆”って俺たちのことか? クソ生意気なインテリめ! 今に見ておれ・・』と恨んだところで、“先生”といった人たちに対しては遠慮があるし、議論になっても敵わないから、大概、ぐっと堪えて何も言わない。そして、黙ってエルドアン首相のAKPに票を入れる。
エルドアン首相は、その“クソ生意気なインテリ”どもにピシャリと平手打ちを喰らわせてくれる。実に爽快だ。
6月の“ゲズィ公園騒動”の際、外遊先から帰ったエルドアン首相は、空港で出迎えた支持者たちを前に、「デモには屈しない」と強硬な発言を繰り返して批判されていたけれど、あの場面では、融和的な姿勢を見せたら却って拙かったような気もする。人々は、エルドアン首相の強硬な発言に安心して家路についた。さもなければ、“クソ生意気なインテリ”に対する恨みがさらに充満してしまったかもしれない。
ここで言う“人々”は、上昇志向があって、これからどんどん稼いで生活をもっと良くして行きたいと思っている人たちで、学歴が低いとか、低所得層であるという意味じゃない。彼らはとても実際的だから、妙な理想論を好まないだけだ。
エルドアン首相は、演説で経済成長を説きながら、よく色んな数字を並べる。どのくらい合っているのか怪しいものだが、いくらか実際的な感じがして、人々は少し期待したくなるのだろう。
田中角栄もそうだったような気がする。でも、もう今の日本では、角さんもエルドアン首相もそれほど受けないのではないか。これが“成熟”なのか“老け込んだ”だけなのか何とも言えないけれど、今も右肩上がりのトルコが、早々と老け込む必要はないと思う。しかし、“・・・なインテリ”の方たちは、早い“成熟”を望むのかもしれない。

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