メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

川下ニーズ

トルコでも韓国でも軍が政治的な影響力を持つなんて、もちろん有ってはならないけれど、韓国の知識人が唱える“反日イデオロギー”や“国家の正統性”といった議論も何とかならないものかと思う。
“国家の正統性”など、糺されても糺されなくても、国民の生活には殆ど影響がないだろう。日本で、ああいった世俗を離れた議論が繰り返されると、「どうでも良いけど、それで誰が儲かるの?」などと下種張る私らのような俗物がたくさん出てきそうだが、韓国は少し高尚過ぎるのかもしれない。
しかし、日本も近頃は、“美しい国”とか言い出して、なかなか高尚になってきた。“儲かりまっせ日本!”とでもやった方が元気になって良いんじゃないかと思う。
先月、サバー紙のコラムで、メフメット・バルラス氏は、「産業化時代から情報化時代に移行した現在、その動向を決めるのは消費者であり、この消費者は有権者でもある」といった趣旨の話を書いていた。日本では“川下ニーズ”という言い方が広まって、もう久しいような気がする。
でも、韓国などは情報化時代の最先端を走っているのに、何だか未だに“川上”が強そうに見えてしまう。
メフメット・バルラス氏は、相当な名家の出らしいけれど、そのコラムには、エスプリが利きすぎているというか、少々俗っぽい話も多くて面白い。92~94年、辞書を引きながら、やっと新聞が読めるようになった頃、私が最も良く読んでいたのは、このメフメット・バルラス氏や、今年亡くなったメフメット・アリ・ビランド氏、メフメット・アルタン氏のコラムだった。
3人ともリベラルというカテゴリーに入るかもしれない。しかし、アルタン氏に比べて他の2人は、当時から、あまりイデオロギー的ではなかったようだ。
その頃、読んだ記事じゃないかと思うが、ボスポラス海峡に橋を架ける為の調査を行った日本の建設会社が、アヤソフィアトプカプ宮殿の辺りからでも、技術的には可能であると発表したところ、多くのトルコ人ジャーナリストが、「景観を壊す」と言って、これに反対した。ところが、バルラス氏の見方はちょっと違っていた。
・・・第一大橋が架けられる前も、景観が問題にされたが、今や多くの人たちが大橋の姿を写真に収めたりして喜んでいる。・・・アヤソフィアが建つ前、あの辺は美しい森林だったはずなのに、ギリシャ人が来て、あの巨大な建造物を建ててしまった。当時、森林を愛する人たちはさぞかし悲しんだことだろう・・・・
例によってあやふやだけれど、こんな記事だったと記憶している。
バルラス氏の先日のコラムも面白かった。
・・・昔は町内の金持ちの子だけがサッカーボールを持っていて、気に入らないことがあると、その子はボールを持って帰ってしまい、ゲームはそこで終わった。しかし、今や誰もがボールを持っている。そのボールは“票”という名で、投票箱から現れるのだ・・・・。
トルコもいよいよ“川下ニーズ”による国になって来たのではないかと思う。