メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

ナスレッディン・ホジャ

記憶に誤りがなければ、“週刊朝日百科”の“世界の地理”だったと思う。ネットで調べたら、83年~86年にかけて刊行されていたとある。毎週、各国別に、歴史や文化、国情を紹介していて、巻末に“民衆のヒーロー”というようなコーナーがあった。

パキスタン編では“ジンナー”、インド編では“ガンジー”がヒーローになっていたと記憶している。それで、トルコ編は、当然、アタテュルクだと思っていたら、意外なことに“ナスレッディン・ホジャ”だった。少し驚いた所為か、これは良く覚えている。

ナスレッディン・ホジャは、13世紀頃、トルコに実在したとされる頓知話の主人公で、イスラム教の導師ということになっている。

実在したとしたら、一休さんのように、かなり生臭い導師だったのではないか。とても世俗的な人物だったような気がする。

イスラム的と言われるAKP政権が誕生して以来、世俗主義の体制が脅かされているという論説が繰り返され、私も不安に感じたりしたが、考えてみると、ナスレッディン・ホジャを生んだ社会が、そう簡単に教条主義へ陥るはずがない。

学識のある先生たちが、イデオロギーや宗教の教義を熱心に説けば、人々はこれを有り難く拝聴するけれど、その全てを文字通り受け入れたりはしないだろう。「この先生はなかなか偉い人だが、ちょっと実際的じゃないね」などと言いながら・・・。

“民衆のヒーロー”としてナスレッディン・ホジャを採り上げた編集者の方は、世俗的なトルコ社会のルーツをナスレッディン・ホジャに求めたのだろうか? そして、この世俗的な社会に、近代化をもたらしたのがアタテュルクであるということなのかもしれない。