メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

陰謀説

今回の騒動、「樹木を守ろう」と言って、公園に立て篭もっていた人たちを、警官隊が放水車と催涙弾で、それも未明に奇襲するような手を使って排除しようとしたのが発端だった。これには、政治や宗教的な信条を異にする多くの人たちが反発を示した。
警官隊が、何故、あんなに焦って人々を排除しようとしたのか、良く解らない。プロジェクトの一環である道路地下化の工事も、トルコにしては珍しく凄い速さで進んでいた。何か工事を早く終わらせなければならない事情でもあったのだろうか?
そして、6月1日の土曜日、5千人以上と言われる抗議デモの人たちが公園に向かって行進し、警官隊を撤退させて、公園とタクシム広場を占拠した。
これには、左派・政教分離主義者のグループの他にも、右派MHP(民族主義行動党)の支持者など、色んなグループが参加していたと言われる。しかし、抗議デモに便乗した不良グループが銀行のATMを破壊、略奪したりして、一般市民の反感が高まると、MHP支持者は、バフチェリ総裁の意を受けて、デモから離れたようだ。
広場に残った若者たちの中には、特に支持政党を持たないノンポリも少なくないらしい。その後、サッカーチームのサポーターなども集まってきて、様相はますます不明瞭になってしまった。
AKP政権側は、アルンチ副首相が、警官隊の行き過ぎた行為を謝罪したりして事態の沈静化に努めたけれど、エルドアン首相は強硬な姿勢を崩さず、緊張した状態が続いている。
今日、6月11日のザマン紙で、コラムニストのミュムタゼル・テュルコネ氏は、これを“コントロールされた緊張”であると解説していた。エルドアン首相は、強硬な姿勢で、党内と支持層の結束を図りつつ、副首相らに緊張を和らげる役を任せているのだと言う。先週、AKPの党員やっている友人を訪ねたが、彼もこれを「良い刑事と悪い刑事」に例えて説明していた。
エルドアン首相が強硬な姿勢を見せているのは、ノンポリの若者や「樹木を守ろう」と言う人々ではなく、左派・政教分離主義者らに対してだと言われている。彼らは、エルドアン首相の辞任を要求しているのだから、当然かもしれないが・・・。
こういった左派の中には、2007年、ギュル氏の大統領選出に反対して、軍部にクーデターを呼びかけた人たちもいる。今回の騒動でも、ネットを検索して見たら、「将軍は寝ているのか! 職務につけ!(“クーデターを起こせ”という意味だが、軍の職務はクーデターなんだろうか?)」なんていう書き込みがあった。
ラディカルな共産主義者を除けば、トルコの中道左派は、かつての体制派と言って良いのではないかと思う。体制側の人が左派であるのは奇妙かもしれないが、彼らによれば、アタテュルクの革命は未だ完了しておらず、共和国は革命体制ということになるらしい。しかし、革命も90年続けたら腐ってしまうような気がする。
この人たちは、民主的な選挙でAKP政権を覆そうと努力せずに、軍のクーデターを望んだり、今回のような騒動に乗じて気勢を上げたり、そんなことばかりしている。「選挙では、愚かな大衆がAKPに投票してしまうから勝てない」などと平気で言う。いったい「お前たちは馬鹿だ」と言われて気を悪くしない民衆が世界の何処にいるだろう? 
さて、「アメリカの言うことを聞かなくなったAKPは切り捨てられる」という陰謀説だけれど、これは2年ぐらい前に聞いた話で、以下のようなストーリーだった。
「反米的な福祉党から袂を分かって創設されたAKPは、政権を取るに当たって、アメリカとの関係を築くため、親米的なフェトフッラー教団の協力を仰いだ。政権の基盤が固まって図に乗ったAKPは、アメリカの言うことを余り聞かなくなると同時に、教団とも距離を置き始めた。この為、AKPに見切りをつけた教団は、左派CHPに接近、選挙協力して政権を取らせる・・・」
この手の陰謀説は、殆どの場合、何の根拠もないから、聞き流せば良いだけの話だが、これを語ってくれた左派のCHP支持者は、陰謀に期待して喜んでいた。それまで彼は、AKPとフェトフッラー教団を“アメリカの手先”“売国奴”と詰りつけていたのに、CHPが売国するのは一向に構わないらしい。
もちろん、左派・政教分離主義者やCHP支持者の中には、思想的に真面目な人もたくさんいる。でも、宗教を棄てたふりだけしていた人も少なくなかったのだろう。
ところで、昨日、CHPに近いとされるジュムヒュリエト紙には、フェトフッラー師がエルドアン首相を非難している論説が掲載されていた。まさかねえ・・・。
しかし、陰謀とまでは行かなくても、最近、トルコが北イラククルド自治区に進出しているのを快く思っていないとされるアメリカが、タクシム広場の騒乱に乗じて、『トルコの野郎、近頃増長しているな。少し苛めてやれ』とメディア等を使って掻き回そうとしている可能性はあるかもしれない。
今日も、タクシム広場では、ちょっとした衝突があったそうだ。トルコの人たちは、バランスを取るのが巧いから、何処か適当な落としどころを見つけてくれるのではないかと祈っているが、暫くは、この騒動から目が離せそうもない。