メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トルコの教育レベル

91年、イズミル学生寮で、浪人中の予備校生が、大学入試用模擬テストの問題に取り組んでいた。後ろから覗いてみたら、幾何の証明問題だった。
私は学校を出て以来、数学の教科書なんて見たこともなかったので、当時も既に、代数は簡単な方程式さえ思い出せなかったけれど、幾何の場合、何となくイメージが残像として頭の片隅に残っていたから、その問題を解いてみようと暫く考えていたら、その予備校生より先に解答を見つけてしまった。
それで、横から口出して、「これはこうじゃないの?」と解答を示したところ、彼は驚いて、「君は日本で高校卒業してトラックの運転手やっていたんじゃなかったのか?」なんて言う。「そうだよ。でもこれは日本の中学校で教えているからね」と答えてやった。
実際、高校ではいつも仮眠中、数学の授業を受けていた記憶も残っていないから、あれは中学校時代の幾何を思い出して解いたのだろう。その予備校生は文系志望で、模擬テストも文系入試用の問題だったかもしれないが、『おいおいこの国の教育レベルはいったいどうなっているんだ?』と首を捻ってしまった。
その後、クズルック村の工場にいた頃も、総務課で文系とは言え、少なくとも大学を出ている同年輩のトルコ人が、給与計算の簡単な数式さえ理解していないのを見て唖然とした。現地社長の日本人は、高専を出られた方だったが、「やれやれここのエンジニアたちは何も解っていない」と良くボヤいていた。あの工場のエンジニアは、中東工科大学卒といったエリートばかりだったのだが・・・。
しかし、2010年に、母と姉が旅行に来て、姉の希望でトルコの普通の初等教育校(小中一貫8年制)を訪れてみると、どうやら状況は一変していたようである。
姉は都立高で生物を教えているから、その初等教育校で、生物と数学の教科書が見たいと所望した。早速、持って来られた第8学年用の数学の教科書をパラパラと少し捲った姉が、「うーん、この教科書はレベルが高い! お前、これ解るか?」と開かれたページの方程式を指し示したので、私も手に取って何とか考えてみようとしたが、姉は「考えなくても宜しい。どうせお前には解らない」と言って、直ぐに教科書を私の手から取り上げてしまった。
ゆとり教育を経てきた今の都立高では、そのレベルを教えるのも既に難しいそうだ。トルコの初等教育校第8学年、日本では中学校2年に過ぎないが・・・。
日本の平均的な中高教育レベルは、とっくに韓国や台湾に抜かれてしまったけれど、おそらく遠からずトルコにも抜かれてしまうだろう。
その次は、大学の研究レベル、そして産業技術とあらゆる分野で猛追して来るに違いない。しかも、トルコは若い人口の方がずっと多い。正しく“後生畏るべし”で、羨ましい限りだが、トルコにも、「今の若い連中は・・・」などと繰り言を述べる、しょうもない同年輩の親爺どもがいる。彼らと話していると頭が痛くなってしまう。