メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

カルタルの海岸通り

昨日の昼2時頃、カルタルの海岸通りでトゥズラへ行くバスを待っていた。この路線は本数が少ないから、タイミングが悪いとかなり長い時間待たなければならない。停留所には私一人しかいなかった。
15分ぐらいして、『行ったばかりだったかな?』と思っていたら、乗用車が一台、停留所のレーンに入ってきて止まり、ハンドルを握っている男が、ちょっとこちらの様子を窺ってから、「何処へ行くんですか?」と訊いた。車にはこの男しか乗っていない。
私も素早く男の風体を探ってみた。30歳ぐらいで、まあ大丈夫そうに見える。クズルック村のような田舎であれば、何の躊躇いもなく止まってくれた車に乗り込むところだが、イスタンブールではちょっと考えてしまう。昨日は快晴で、助け合いの精神を発揮するような状況は何処にもなかった。
しかも、この海岸通りには、夜になると街娼が現れたりする。10ヶ月ほど前、夜9時過ぎに、少し先のペンディク辺りを歩いていると、私以外は誰一人歩いていない歩道に、派手なミニスカートの女性がぽつんぽつんと2~3人立っていた。『あれれ?』と首を傾げながら女性の方を見やったら、その向こうに駐車している車の中から険しい目つきをした男が、じっとこちらを見ていたのである。
昨日の昼も、それで思わず男の風体を探ってしまったけれど、男は私が乗り込んだ後に、「女どうですか?」と訊きそうには見えなかった。男の問いに、「トゥズラ」と答えたら、「それなら、E5国道まで送りましょう」と言うので、有難く乗せてもらった。E5まで出れば、トゥズラ行きのバスはいくらでも通る。
乗り込んでから、「貴方はどちらまで?」と訊いたら、「いや、何処という決まったところはなく、走り回っているんですが・・・」などと、なんだか嫌な連想を起こさせる返答の後、うしろの席からカタログのような小冊子を取り出して、私に手渡した。
カタログに美女の姿はなく、何か機械の写真が並んでいる。「金属製品の工作機械で台湾製です。私はこれの営業に走り回っているんです」。
「全部、台湾製なの?」
「ええ、台湾の会社の代理店ですから」
「貴方は台湾へ行ったことがあるんですか?」
「いや、ありません。行ってみたいですねえ」
「私も台湾には行ってみたいと思います」
こんな風に話が続いて、私が日本人であると明らかになったものの、男には驚いたり喜んだりした様子もなかった。ひょっとすると台湾人じゃなかったことでがっかりしていたかもしれない。
それからまた少し話して、私が工作機械の分野には何の縁も無いと解ったら、男はカタログの説明をするのも止めた。
まあ、なかなか仕事熱心な好青年で、親切にE5国道まで送ってくれたから、とても有難いけれど、まったくの単純な親切でもなかったように思えるところが、なんとなく今のイスタンブールらしいと感じてしまった。