メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

黄金餅

江戸というのは随分と酷い都市だったらしい。地方の農村から、家督を継げない次男坊やら三男坊が江戸に押し寄せてくるけれど、ろくに仕事もないため、皆貧乏長屋暮らし。もちろん結婚なんて出来ない。少し稼げる奴は金で女を買えるから、女郎屋が花盛り。金の無い奴は春画でも見て抜いていたのかもしれない。それで、こちらの芸術産業も栄えたのだろうか? 
長屋は衛生環境も悪くて早死にする奴が多かったそうだ。その為、江戸時代に人口は余り増えなかったと言う。 
落語を聴いても、この辺りは何となく解るような気がする。例えば“黄金餅”。
長屋住まいの吝嗇な坊主は、大病を患って隣の金兵衛さんが見舞いに来てくれると、あんころ餅を所望し、そのあんころ餅からあんを抜いてそこへ貯め込んでいた金貨を押し込み、それを全て飲み込んでしまう。貯めた金貨を残したままじゃ死んでも死に切れなかったのか・・ 
それを隣から覗き見していた金兵衛さん、坊主が最後の餅を喉に詰まらせて苦しみ出したのを見て、助けに駆けつけたけれど、坊主は餅を吐き出すことなく死に絶える。 
金兵衛さんは、長屋の連中に手伝ってもらって坊主の亡骸を自分の菩提寺まで運ぶと、葬儀を済ませて皆を帰し、一人で亡骸を火葬場に持って行って焼いてしまい、腹に詰まっていた金貨を取り出して、その金で目黒に“黄金餅”の店を開き、大いに繁盛したという話。 
金兵衛さんばかりじゃなくて、長屋の連中は皆独り者なのか、家族がいるような話は全く出てこない。他の落語を聴いても長屋の連中は大概そんな感じ。現代の独り者フリーターたちと余り変わらないような気がする。衛生環境が良くて、それほど早死にしなくても済む現代の独り者は少しましだろう。 
しかし、江戸時代はその悲惨さを落語にして笑い飛ばしていたところが凄い。当時の落語家たちが蘇ったら、現代の日本は話のネタが多くて喜ぶかもしれない。飯も食わずにネットカフェで息絶えてしまった若者とか、死んだ爺さん婆さんの年金をもらい続けた家族とか、いろいろ脚色して“黄金餅”のような笑い話に仕立て上げてしまうのではないだろうか。 

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