メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

とても寛容なトルコの人々?

一時帰国する前だから、7月の初めの頃ですが、引越しの手筈が上手く行かなくて、ヨーロッパ側はベイオウル辺りの安ホテルに3泊しました。その近くに3日ほど通わなければならない用事もあったため、根城をベイオウルにしたわけです。

ベイオウルはイスタンブール随一の繁華街。ホテルの周辺には庶民的な居酒屋から高級レストランに至るまで、ありとあらゆる飲食店が揃っているものの、安ホテルに泊まりながら、そんなところで散財してもしょうがないので、2日間は路上にずらっと並んでいるテーブルの間を素通りして我慢したけれど、3日目に堪らず何処かで一杯やって行こうと店々の様子を窺っていたら、小さな大衆魚料理屋の店先に5~6台置かれたテーブルの一つで、新聞紙に包まれたままの缶ビールを飲んでいる客の姿が目に留まりました。

こういう店は、酒類販売の許可を取らずに営業しているから、普通に酒を提供している店より格段に安いかもしれません。近寄って、人の良さそうな髭面の店員に、まずはビールの有無を確認。それから魚の値段を訊きます。

イワシある?」
「ちょっと切らしています」
「他に安い魚だったら何があるの?」
「メズギットなら、8TLです。フライで良いですか?」

メズギットというのは鱈のような魚だろうと思いながら、どんなものか見もしないで、安さに引かれて即決し、端のテーブルに腰掛けました。

暫くして、髭面が新聞紙に包まれたビールを持って来たから、少しずつ飲んでいると、いくらも待たないうちに、小さな魚のフライが1ダースほど並んだ皿が運ばれて来たので、早速、一匹フォークで突き刺して、頭からガブリとやったら、これがなかなかの美味。思わず、ビールも口にしないまま、直ぐに二匹目をガブリ。『これで8TLは安い』と得心しながら、ビールをぐいとやると、そこへ髭面が慌てた様子で飛んできて、「すみません。この魚はテキルで、向こうのお客さんのでした」なんて言います。

「もう二匹食べちゃったよ」

それでも髭面は、困った顔しながら、その皿を取り上げて、二つほど先のテーブルへ持って行こうとしたところ、ちょうどそこへ私が注文したメズギットの切り身のフライが出てきました。

髭面は、向こうの二人のお客さんにメスギットの皿を見せながら、何事か交渉していたものの、お客さんから突っぱねられると、メズギットを私のほうへ回し、今度は二匹欠損しているテキルの皿を勧めて、「あちらのお客さんが一匹だけ食べちゃったんですけど」などと余計なことまで言う有様。

「一匹じゃねえ、二匹食べたよ」と呟きながら、『一匹でも、あの客たちが許すはずないよな』と成り行きを窺っていたところ、驚いたことに、彼らはその皿をテーブルに置かせると、何の問題もなかったかのように、それを食べ始めたのです。

彼らもさすがに髭面の話を聞いている時はムッとしていたようだけれど、それほど髭面を叱りつけたりもしませんでした。トルコの人たちは何と寛容なのかと今更ながら呆れてしまいます。

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