メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

アンティオキア教会

 ハタイ県のアンタキヤに来ています。いにしえのアンティオキアです。昨日の夜、ハタイ空港に降りた時もイスタンブールより大分暖かいと感じたけれど、今日の昼はもう夏の陽気でした。30℃ぐらいまで上がったのではないかと思います。
3年前、美術科の教員としてアンタキアに赴任した友人のアフメットさんから、毎年のように招待されていたのに、なかなか叶わなかった旅がやっと実現しました。
アフメットさんは、トラブゾン県のトンヤ地方出身、彼の村では今でもギリシャ語のポントス方言が話されているそうです。アフメットさんによれば、この村は、おそらく数世代前まで、ギリシャ正教を奉じていたのが、時勢に抗しきれず、イスラムに改宗したのではないかと言います。とはいえ、彼自身は、こういった歴史上の変遷を、「自分は特に信仰があるわけじゃないから、キリストだろうとイスラムだろうと何でも構わないよ」と余り意に介した風でもありません。
しかし、ギリシャ人やイスタンブールのルム(トルコ国籍のギリシャ人)には、並々ならぬ関心があるようです。ニューヨークに留学していた時分は、ギリシャ人の多い街に住んで、交流を深めたと話していました。
アンタキアには、ギリシャ正教東方正教会)の教会があり、正教徒の住民も多いから、アフメットさんは彼らとも交流しているのかと思って訊いたら、アンタキアの正教徒は皆アラビア語を話しているらしく、彼はこの街でギリシャ語を話す人をみたことがないそうです。
イスタンブールには、ギリシャ語もアラビア語も解るハタイ出身の正教徒がいるけれど、多分、彼らはイスタンブールに来てからギリシャ語を習得したのでしょう。
今日は、アフメットさんとそのギリシャ正教東方正教会)の教会に行って来ました。アンタキアは、エルサレムの次に教会が築かれた地と言われ、キリスト教徒の方にとっては、とても重要な教会だそうです。
イスタンブールでは、何処の教会に行っても、日曜日のミサを自由に見学できたから、事前に問い合わせることもなく、ミサが始まった頃を見計らって出かけたら、中庭で来場者を案内しているおじさんに、「信徒でない方はミサを見学できません。11時にミサが終ってから来て下さい」と言われてしまいました。
後から来たトルコ人の旅行者は、これを聞くと直ぐに諦めて引き上げてしまったけれど、私はどうにも納得が行きません。
イスタンブールでは、何処でも見学できますよ」
「ここは有名な教会なので、観光客の方たちが沢山訪れます。見学を認めたら、混雑してミサが行えなくなってしまいます」
イスタンブールの総主教座には、多くの観光客が訪れますが、それでも見学は自由です」
「ここはイスタンブールではなく、アンティオキア総主教座(所在はダマスカス)の管轄なんです」
アフメットさんも、何とか許可をもらおうと、「私はトラブゾンのトンヤ地方の出身なんで、もとを質せばルムだったのです。10分ぐらいだけ静かに見学しますから・・・」と食い下がり、二人で繰り返しお願いしたら、案内のおじさんは、「じゃあ、責任者の方に訊いてきましょう」と言って、その場を離れ、暫くして戻って来ると、「これは特別に許可するんですよ」と念を押してから、礼拝堂の中へ案内してくれました。
見学したのは、実際、ほんの20分ぐらいです。イスタンブールギリシャ正教の教会は、復活祭とかクリスマスでもない限り、訪れる礼拝者は少ないけれど、アンタキアには、かなり正教徒の人口があるのか、20分もしたら、大分席が埋まってきて、おじさんの心配も解るような気がします。
ミサはアラビア語で執り行われていたようです。十字架を掲げて登場した子供たちの姿が印象的でした。イスタンブールのルムには、もう若い世代が殆ど残っていないので、こんな光景はまず見られません。
外へ出て、門に掲げられているアラビア文字の看板にカメラを向けていたら、そこへ、トルコの大学生と思われる4人の男女がやってきました。二組のカップルなのか、その辺は良く解りません。一人は、スカーフを被った敬虔そうな女性でした。この4人は、2時間ほど離れたカフラマンマラシュから観光に来たそうです。
スカーフの女性に、「カフラマンマラシュにはいらっしゃいましたか?」と訊かれたので、「17年ぐらい前、名物のアイスクリームを食べるために3時間ほど寄ったことがあります」と言ったら、皆で笑ってくれました。
多分、日帰りの旅行じゃないかと思うけれど、カフラマンマラシュのような保守的な地域から、しかもスカーフを被った女性もいるのに、こうして若い男女が文化的な散策を楽しめるようになったとは、なかなか感慨深いものがあります。

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