メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

日本の女性は必ず貞操を守る?

2000年には、都合4回に亘って北キプロス共和国へ足を運びました。今回の話は、その4回目のことじゃなかったかと思います。

例によって、タクシーを相乗りで利用しようと、空港で同乗者を物色していたところ、如何にも田舎丸出しで人が良さそうにニコニコしている兵隊姿の青年が見つかり、早速つかまえて事情を説明したら、直ぐに了解してくれたので、今度は2人して、もう1人の同乗者を探したら、やはり兵役でキプロスに来たという青年が訳もなく見つかりました。

この青年は洒落た私服を着ていて、態度にも垢抜けたところがあり、出身地を訊いたら、イスタンブールは観光のメッカであるスルタンアフメットの近くで、家業は印刷屋なんだそうです。ちょっとシニカルな雰囲気を漂わせ、田舎丸出し青年とは対照的に殆ど笑いません。

田舎青年の出身地は詳細を忘れてしまったけれど、シヴァス県だかエルジンジャン県だか、如何にも田舎という内部アナトリアの一地方でした。

とにかく、何が楽しいのかずっとニコニコしているから、ニコニコ顔のお面でも貼り付けてあるんじゃないかと可笑しくなってしまったほどです。

背が高くて頑丈そうな体つきであり、背が低くて華奢なシニカル青年と並べて思い出すと、なんだか村上春樹の「雨天炎天」に出て来る朴訥とした兵隊と気障な下士官が頭に浮かんでしまいます。

田舎青年は「日本人と会えるなんて本当に嬉しいです」と大袈裟に喜んだものの、シニカル青年はスルタンアフメットで日本人を始めとする外人観光客を見慣れている所為か一つも騒がず、落ち着いて日本人観光客の印象などを語っていました。まあ、シニカルでとっつき難いものの、なかなか品の良い好青年でした。

タクシーで市内の目的地に着き、握手を交わして別れようとしたところ、田舎青年が「せっかくこうして会ったのだから、皆で昼を食べませんか?」と、例のニコニコ顔で提案。

私はもちろん賛同したけれど、シニカル青年が嫌がるんじゃないかと思って振り返ったら、あっさり「それは良い」と言って微笑んだので、『やっぱりトルコ人だなあ』と妙なところに感心しました。

近くにあった適当なロカンタに入って食事を済ませ、お茶を飲んでいる時、田舎青年はニコニコしながら日本ついて色々尋ねたあげく、「日本の女性は必ず貞操を守るそうですね」なんて言い出します。

夢を壊すのは悪いと思いながらも、実態を知った時の反動を防ぐ為に、有りのままを伝えたほうが良いと考え、「残念ですが・・・」と説明したところ、田舎青年の顔からニコニコが消え去りました。

不安そうな表情で「そ、そうなんですか?」と訊き返すので、何と言おうか躊躇っていると、シニカル青年が横合から呆れたように、「君は何にも知らないな。日本や西欧といった先進国では、セックスも女性も自由なんだよ。解るか?」と言い放ったのです。

田舎青年はかなり動揺したらしく、あのニコニコ顔からは想像も出来ない厳しい表情になったものの、これも僅かな間のことで、またニコニコ顔に戻ると、「でも、僕は日本が大好きなんです」と自分を納得させるかのように話していました。