メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トルコ・コーヒー

コーヒーハウスは、オスマン帝国の時代、17世紀にイスタンブールで開業したのが発祥と伝えられているくらいで、トルコにはコーヒーを嗜んできた長い歴史があります。その伝統的なコーヒーは、豆を粉末状に挽いて煮出し、濾さないまま粉がカップの底に沈殿してから飲む“トルコ・コーヒー”と言われるものでした。
チャイと呼ばれるトルコ風紅茶の歴史は意外に浅く、飲用が全国に広まったのは共和国になってからだそうです。それが今では、いつでも何処でも「チャイ、チャイ」とばかりに紅茶が幅を利かせるようになってしまい、コーヒー、特に伝統的な“トルコ・コーヒー”は主流から外れてしまいました。
ところが、19世紀にオスマン帝国から分離独立したギリシャでは、オスマン帝国においてコーヒー文化を共有しながら、チャイの文化は分かち合うことがなかった所為か、未だに紅茶より圧倒的にコーヒーが多いようです。“トルコ・コーヒー”もギリシャでは“ギリシャ・コーヒー”となって、トルコよりも遥かにたくさん飲まれているのではないでしょうか。
もちろん、今でも“トルコ・コーヒー”はトルコの食生活に欠かせない名脇役であり、イスタンブールにはコーヒー豆を焙煎して販売する店が所々にあるけれど、その場でコーヒーが飲める喫茶コーナーを設けている店は、どういうわけか見掛けたことがなく、豆を売る店とコーヒーを飲む店は別になっているようでした。
その為、焙煎している店の前を通り掛って、あの堪らなくそそられる香りに思わずコーヒーが飲みたくなったとしても、直ぐそこで一杯のコーヒーを所望するわけにはいかなかったのです。
それが昨日、カドゥキョイの街を歩いていて、漂ってきたコーヒーの香りに引き寄せられるように焙煎している店の前まで来ると、路上に設けられたテーブル席で“トルコ・コーヒー”を楽しんでいる人たちの姿が目に留まり、何とも言えず嬉しくなってしまいました。
この店は1923年創業という老舗だそうですが、こうして喫茶コーナーのサービスを始めたのは4年前からで、「こうした試みは他店にないかもしれません」と言います。早速、“トルコ・コーヒー”を味わってみたところ、これがまた実に美味いというか、それまでの“トルコ・コーヒー”に対する概念を覆してしまうような究極の一杯でした。この辺りは良く来る所だから、私は自分が4年もの間この店を発見できなかったことが恨めしくてなりません。