メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

ある老舗菓子店での出来事

去る1月の末、金曜日の昼時に有名な老舗菓子店の近くを通りかかったので、「小腹が減ったから菓子でもつまんで行くか」と思いながら寄ってみたところ、入口のガラス戸に“金曜礼拝の為、×時×分まで営業を休止しております”という伝言板がかけられていて、店内の照明も落とされていました。

時計を見たら、営業再開まで10分ほど待たなければなりません。どうしたものか考えていると、パリッとしたスーツを着ている40歳ぐらい男がやって来て、同様に伝言板を見てから、「なんということだ!」と大きな声をあげ、周囲の人たちへ訴えるように「イスラムの連中が政権につくとこういうことになるのか? 信じられん。こんなことが許されて良いのか?」と一頻り文句を並べた後で、店の前に置かれたテーブルの席へどっかりと腰を下ろしました。

それからいくらも経たない内に、今度は品の良い身なりの老夫婦がやって来て、「おや? 閉まっているのかな?」と誰にともなく問い掛けると、スーツの男は「ええ、金曜礼拝なんだそうですよ。イスラム政権の影響でしょうかね? 困ったことになったもんです」と少し冷静になって投げやりな様子で答え、老夫婦は「まったくどうなってしまうのだろう?」と嘆息しながら顔を見合わせます。するとそこへ、先ほどから少し離れたところに立っていた30歳ぐらいの大人しそうな男が躊躇いがちに進み出て、「あのう、僕はこの界隈にもう15年ほどいますが、昔からこの店では、金曜礼拝の時に営業を休止していましたよ」と明らかにしたけれど、その服装などを見ると彼自身も信仰心がありそうな感じです。スーツの男が彼のことを見据えながら、「さあ、私もこの店には15年ぐらい前から来ているが、こんなことは見たことがなかったね」と言い返したら、「でも、本当にそうなんですよ」と困ったような顔をしていました。

スーツの男は、その後も店内の様子を窺いながら、「もう時間だろう? いつまで礼拝しているんだ? いい加減にしてもらいたいな」と文句を言い続けていたけれど、店員が出て来てガラス戸を開け、待っていた人たちを招き入れると、何も言わずに店内に入り、進物用と思われる大量の菓子を購入し、店員がサービスで差し出した菓子を美味しそうに頬張りながら、会計が済むまで店員と談笑したあげく、意気揚々と引き上げて行きました。

先日、またこの店に寄る機会があったので、店員にそれとなく“金曜礼拝の為の営業休止”の件を尋ねてみたところ、これは1949年の開業以来のことなんだそうです。

トルコでは、最近、イスラム傾向があるとされているAKP政権が、大学におけるスカーフの解禁などを積極的に推し進めているものだから、疑心暗鬼になっている人々は些細なことでも過敏に反応してしまうのかもしれません。