メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

ハタイ県のアレヴィー派

昨日、アレヴィー派の断食を話題にしましたが、今日は92年にイズミルで始めてラマダンの断食、つまりスンニー派の断食を迎えた時の見聞をお伝えしたいと思います。

その頃はエーゲ大学にあるトルコ語教室に通っていたのですが、他の受講生の多くはトルコ語を習得してから大学の各学部へ入る予定になっている留学生であり、シリアやパレスチナといったアラブ圏から来ている学生も少なくありませんでした。

こういったアラブの留学生たちと親しくしているトルコ人の学生もいて、彼はトルコ語教室までアラブの留学生を訪ねて来て、アラビア語で彼らと話したりしていました。当初、私はこのアラビア語に堪能な学生を信心深い敬虔なムスリムではないかと思っていたところ、ラマダンを迎えたある日の昼、キャンパス内のカフェテリアへ入ったら、彼が平然と茶を飲んでいたので、意外に思って、「断食はしないのですか?」と声を掛けると、「そんなもの僕らとは何の関係もありませんよ」と言うのです。

私は『ひょっとするとアレヴィー派かな?』と思ったけれど、その頃は未だ大っぴらに「アレヴィー派ですか?」なんて訊くことが憚られるような雰囲気もあったから、遠回しに話を進めてみようと、まず「トルコには色々な宗派があるようですね?」と訊いてみました。

すると彼は、「ええ、色々ありますね。スンニー派、アレヴィー派、正教、カソリック・・・」と並べ上げ始めたので、「ちょっと待って下さい。正教やカソリックキリスト教じゃないですか?」と口を挟んだところ、「これは皆トルコに存在している宗派ですよ」と全く意に介さない様子。それで今度は質問を変えて、「まあ、色々な宗派があるようですが、何か問題になっている宗派はありますか?」と訊いたら、彼は大きな声で、「ありますね、問題のある宗派が、それはスンニー派です。非常に後れた考えを持っていて大きな問題となっています」と言い放ったのです。私は思わず周りを窺ってしまいました。周りにいた学生たちは、ラマダンに昼間カフェテリアでお茶を飲んでいるくらいだから、それほど信心深くはないだろうけれど、その殆どがスンニー派だったでしょう。

もうその時は、訊くまでもなく明らかだったけれど、一応、最初から訊いてみたいと思っていたことも尋ねたら、「僕ですか? 僕らはアレヴィー派です。トルコで最も近代的で健全な宗派です」と胸を張って答えてくれました。

それから、何故アラビア語を知っているのか尋ねてみたところ、彼はシリア国境に近いハタイ県の出身でもともとアラビア語母語として育ったという話です。「やはりアラブの留学生には親しみを感じるのですか?」と訊いたら、「その多くは信心深く後れた考えを持った連中であり、別に親しみを感じるわけじゃないけれど、アラビア語の練習にはちょうど良いんでね。僕らがハタイ県で使っているアラビア語は一種の方言なんで、そのままでは向こうの連中に通じない場合があるから、少しずつ勉強しているんですよ。アラビア語を話せれば役に立つこともあるでしょう」というようなことを話していました。

彼の父親は税関の役人だそうで、転任に伴いトルコの各地を移動したため、ずっとハタイ県にいたわけではなかったようですが、家族の間ではアラビア語を使っていたのでしょう。