メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

白昼暗殺されたジャーナリスト

昨日の夕方、イスタンブールは新市街のタクシム広場を通ったら、広場の一隅に凄い人だかりが出来ていたので、「何だろう?」と思いながら近寄ってみたところ、人だかりの中ほどにアルメニア系の著名なジャーナリスト“フラント・ディンク氏”の顔写真が掲げられています。

嫌な予感がして、顔写真の下の文字が読めるところまで接近してみると、そこには「フラント・ディンクは殺された」と記されており、言い様のないショックを感じました。

フラント・ディンク氏は、トルコのアルメニア人の立場から、所謂アルメニア問題に関するトルコ政府の姿勢を批判していたけれど、あくまでも「トルコ国民・アナトリアの同胞」として発言し、国際世論の中で非難にさらされるトルコを擁護することもあったからです。

今朝のザマン紙一面の見出しは「この銃弾はトルコへ撃ち込まれた」となっていますが、実際、トルコにとっては大きな損失であり、良識のある全てのトルコ人を悲しませる事件だと思います。

昨夕のタクシム広場の群集は、この凶行を抗議するために集まった人々であり、広場へ通ずるイスティックラル通りでも様々なグループが抗議のデモ行進を繰り広げていました。

この中で“トルコ共産党”のグループは、「くたばれファシスト、くたばれアメリカ合衆国」というシュプレヒコールを連呼していたけれど、「この事件とアメリカ合衆国に何の関係があるのか?」と非常に興醒めな感じがして、これは残念でなりません。

しかし、私は「今のトルコがディンク氏の死を無駄にしてしまうことはない」と信じ、今後の展開に希望を持っています。これを契機として、様々な議論が闘わされ、狂信的な民族主義は社会の隅へ追いやられてしまうでしょう。そう期待して止みません。

ラディカル紙には、実に衝撃的で傷ましい写真が掲載されていました。人の死はなんとも惨いものです。

一昨日の朝、私は嫌な夢にうなされて目が覚めました。何故、そんな夢を見たのか良く解りませんが、夢の中で、私は死刑を宣告されているのです。大概の夢がそうであるように、その光景はとても奇妙なものであり、学校の教室のようなところに私を含む20名ほどの“死刑囚”が集められ、刑が執行される順番を待っています。

そこには何の緊張感もなく、私はボンヤリと“教室”の壁に掛けられた時計に目をやり、時計の針が12時前を示しているのを確認しながら、「この分だと、俺の順番が回ってくるのは3時ぐらいかな?」などと呑気なことを考え、「あっ、3時と言えば、あの友人に連絡しなければいけないことがあったなあ。でも、この状態じゃ連絡が取れないし、どうしたら良いんだ?」なんて詰まらないことを心配し始めたけれど、これではまるで落語の“品川心中”でしょう。

それから夢の中で、はたと気がつき、「何を考えているんだ。俺はもう処刑されてしまうのだから、今更連絡などしてもしなくても同じじゃないか」と悟り、それと同時に「えっ? もう数時間後に俺は死んでいるのか」と急にドキドキしてきたあげく、うなされながら目を覚ましてしまったのです。

まあ、私には首を吊る勇気もないだろうけれど、人間の死とはそんなに簡単なことじゃない、人が一人死んでしまうのは大変なことなんだと思い知らされたような気がします。