メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

クラシック音楽のコンサート

昨夕は、友人がトロンボーン奏者を務めた“カドゥキョイ・ベレディエスィ・フィラルモニア・イスタンブル管弦楽団の演奏を市内のコンサートホールへ聴きに行きました。

演奏されたのは、ハチャトゥリアンのバイオリン協奏曲とフランクの交響曲で、いずれも初めて聴いた曲だった為、私には解りづらいものでしたが、ホールはほぼ満席でなかなか盛況だったように思います。ただ、お年寄りの姿が少々目立っていたかもしれません。

イスタンブールでは、こういった地元の管弦楽団や海外の著名な演奏家によるクラシックのコンサートが頻繁に催されているものの、市内の各CD店におけるクラシックのコーナーは、いずれもロック等の他のコーナーに比べて貧弱で品揃えが少なく、例えば、昨日演奏された“ハチャトゥリアンのバイオリン協奏曲”などは何処へ行ってもなかなか見付からないのではないでしょうか?

トルコでは、共和国の初期に、「最も優れた音楽はドイツのクラシック音楽である」として、国家が“ドイツのクラシック音楽”を国民に浸透させる為の政策を実施したそうですが、結果的にこの政策は成功しなかったと言えるかもしれません。

また、そうやって、上から押し付けようとしてしまった所為なのか、トルコではクラシック音楽が未だに“教養”として扱われ、娯楽としての認識が足りていないような気もします。これでは、エンターテイメントのビジネスとして展開して行くことも難しいでしょう。

とはいえ、トルコに限らず、世界的にもクラシック音楽のビジネスは退潮傾向にあると言われ、東京は渋谷のタワーレコードのクラシックCD売場も、かつての石丸電気レコード店が見せた賑わいに比べると、なんだか少し寂しいものになっているようです。

91年にイズミルトルコ語学校で勉強していた時、同じ教室にいたドイツ人の若い女性たちに、「ドイツのクラシック音楽とか聴きますか?」と尋ねたら、「最近、あれはねえ、日本人の観光客が聴きに来るのよ。私たちが聴いているのは“レッド・ツェッペリン”とかそういうの。レッド・ツェッペリンって知ってる? 」なんて笑われてしまいました。

小学生の頃、私は家に置いてあった78回転のレコードで“ベートーヴェンの第5交響曲”を初めて聴いたものです。この78回転のレコードは、AB両面でやっと第一楽章が終わるという代物で、全曲聴こうと思えば4枚のレコードを掛けなければなりません。この他にも沢山のクラシック・レコードがあったけれど、小学生の私は、第5交響曲でさえ殆どの場合、一楽章までしか聴かなかったくらいで、あとは全く手付かずの状態でした。

後年、母から聞いたところによると、そのレコードの数々は、戦後まもなくある男性が母にせっせとプレゼントしたものだったそうです。

「お母さんはプレゼントされた時に聴いたんですか?」と尋ねたら、「全く聴かなかったね。あれは多分お前が初めて聴いたんだろう。プレゼントした本人が、あの手の音楽を聴いていたかどうかも解らないよ。あの頃はね、若い女の気を引こうと思ったら、ああいうものをプレゼントすることになっていたんだ」と笑っていました。

今の日本で、そんなものをプレゼントしたら、「センスないわねえ」とか言われてしまうのが落ちでしょうか?

しかし、トルコの場合、左翼即ちインテリという図式も未だに成り立っているくらいだから、“クラシック音楽で教養のあるところを見せる”なんていう臭い手法が、今もって結構広い範囲で効力を発揮するかもしれません。