メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

なかなか融通が利いてしまうトルコの銀行

私が良く利用している近所の銀行では、警備員さんが笑顔で利用客へのサービスにも努めています。

例えば、自動預払機(ATM)の使い方を知らないおばあさんが来れば、カードを受け取って自ら差し入れ、「おばあちゃん、暗証番号は?」。

おばあさんも紙切れを差し出しながら「そこに書いてあるよ」。「えーと、何々? ふんふん、これで暗証番号はOK。それで、おばあちゃん、何がしたいの?」といった調子。これでは、いったい何の為に暗証番号があるのか解ったものではありません。

私もこういう警備員さんには、にこやかな挨拶を欠かさないようにしています。顔見知りになっていれば、いざという時に融通を利かしてくれるからです。

閉店時間にタッチの差で間に合わなかった時、ガラス戸を叩きながら警備員さんに目配せしたら、「なんだ、お前か? しょうがないなあ、今開けてやるよ」というような顔をしながら、さっと私だけ中に入れてくれたこともありました。

トルコの銀行で融通が利くのは、何も警備員さんに限ったことではありません。普段、行員さんたちが、お茶を飲んだりしながら、のんびり仕事している姿に、思わずムカムカすることもあるけれど、彼らの意外な親切に嬉しくなることもあります。

ここへ越して間もない頃、水道料金を指定の銀行へ納めに行ったら、窓口のところは凄い混雑で、受け取った“待ち順を示すレシート”の番号と、電光掲示板に表示されている“現在取り扱い中”の番号を見比べても、実際に待っている人たちの数からしても、ゆうに一時間以上は待たなければなさそうです。

仕方なく、ポケットから新潮文庫を取り出して読み始めてから、ふと気がつくと、銀行内の照明が落されていて、待っていた人々の姿も何処かへ消えて無くなっています。

「えっ?」と思いながら窓口の方を見ると、未だ一人行員の女性が座っていたので、近寄って「どうしたんですか?」と尋ねたら、彼女は落ち着いた様子で、
「昼休みになりましたから」
「何時までですか?」
「未だ始まったばかりですからね。あと50分ありますよ。ところで貴方は何しに来たんですか?」
「水道料金の支払いなんですが」
「納金書はお持ちですか? ああそれですね。では、こちらへ出して下さい。受け付けますから」
結局これで、一時間以上は待たなければと覚悟していたものが、20分ほどで済んでしまったのです。これには、何だか待ち時間が短縮されたこと以上に、とても嬉しい気持ちになりました。

また、昨年、イスタンブールで100名ほどの作業員を雇用しているメーカーの社長さんとお会いした時に、この話をしたところ、営業などで世界中を飛び回っているその社長さんは、ふっふっと笑いながら「そうだよね。日本の人たちには考えられないことだろうけれど、もっと凄い融通を利かしてくれることもあるよ」と、以下のような話を語ってくれました。

「工場の作業員の給与は現金払いになっていて、給料日の前日にはその分を用意して置かなければならないけれど、ある日これをうっかり忘れてしまってね。気がついたら、銀行の営業はもう終了している時間なんだ。でも、その銀行の支店長は長い付き合いの友人だから、彼に電話して、どうにかしてくれと頼んだところ、『じゃあ、銀行の近くまで来てくれ』というので、銀行の近くに車を停めて待っていたら、彼がその現金を持ってきて、『明日、銀行へ来て事務処理を済ませくれ。これは俺の一存で持ち出した金だからね』と言ったものさ」。