メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

ラマダン期間中の出来事

トルコでは、ここ数年の間にスカーフを被った女性が著しく増えたように言われており、ウスキュダルの街を歩いたりすると、実際そんな風に思えないこともありません。ところが、統計によれば、女性のスカーフ着用率は年々減る傾向にあって、増えたように感じられるのは、スカーフを被った女性たちが社会進出を果たしたことにより、その姿が目立つようになっただけであるとか。もちろんこれは、統計の数字が正しいことを前提とした説なんですが・・・。

女性のスカーフに限らず、イスラム的な傾向は、2002年にAKPが政権を取って以来、統計の結果がにわかに信じられないほど顕著になって来たような気もします。

例えば、先月のラマダン期間中、イズミル在住の韓国人チェさんとイスタンブール市内にある会社を訪れた時のこと。2003年に設立され、本部は米国にあるというその会社は、市内の高層ビルにモダンなオフィスを構え、手広く事業を展開しているようでした。

会議室に通され、パンフレットなどを読んでいると、担当の男性社員が入って来て型通りの挨拶を済ませた後、彼は私たちに向かってこう言ったのです。「ラマダンの期間中であり、全ての社員が断食を実践している為、貴方たちにお茶やコーヒーを用意することもできません。ご了承下さい」。

これには驚きました。私はトルコ在住11年になりますが、ラマダンの期間中だからと言ってお茶を出してもらえなかったことは未だかつて記憶にありません。グランドバザールの顎鬚をたくわえた敬虔そうな老店主でさえ、来客には茶を勧めてくれます。

その社員は、チェさんが韓国の会社を代表して訪れたことを知ると、「我々は韓国にとても好意を持っています。極東と言えば、先ずは韓国。中国にも注目していますが、一番素晴らしいのは何と言っても韓国です」等々、盛んに韓国を称賛するのですが、日本のことは全く話題にしようともしません。おそらく、“韓国人は日本が嫌いである”といったような予備知識でも頭にあるのでしょう。ひたすら、韓国と中国だけを話題にしていました。

それが、話も終わり席を立つ段になって、チェさんが「ところで、彼は日本人なんだけどね」と明らかにしたところ、一瞬、驚愕の色を露わにしたものの、直ぐに冷静さを取り戻し、何事もなかったかのように「実を言えば、私は日本が大好きでして、日本の技術は本当に素晴らしいと思っています」云々と、平気な顔して“日本称賛”にシフトチェンジ。

これがその社員の個性によるものなのか、会社全体の傾向であるのか、その辺のところは何とも解りませんが、とにかく徹底して相手に媚びないと気がすまないようです。

話の中で、会社がAKP政権と密接な関係にあるようなことも仄めかしていたけれど、“ラマダンにはお茶すら出さない”というのも、政権党に対する精一杯の“媚び”だったのではないでしょうか。

ですから、この社員がどれくらい敬虔なムスリムであるのか、それさえ疑わしいわけで、“トルコがイスラム化しつつある”と大袈裟に考えるほどのことではないかもしれません。

ちなみに、この会社の受付に座っていた女性はスカーフを被っていませんでした。