メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

シリア大統領ベシャル・アサド氏へのインタビュー(サバー紙)

2005年2月25日付けのサバー紙、ヤヴズ・ドナット氏のコラムから、シリア大統領アサド氏へのインタビューの部分を訳してみました。インタビューはダマスカスの大統領官邸で実現しています。先代の故アサド大統領の時代を考えるならば、とても信じられない内容のインタビューです。

 

****(以下拙訳)

ベシャル・アサド大統領は、私たちを「ようこそ」と言って迎え入れ、こちらからの質問を受ける前に、以下のように語った。

エルドアン首相のシリア訪問は、私たちの関係を強化しました。4月にはアフメット・ネジデット・セゼル大統領の訪問をお待ちしています。政治的に関係が良くなり、経済面でも好転が見られるものの、両国の大学、知識人、ジャーナリストの間は未だ望まれるレベルに達していません。民衆による関係も強化しなければならないでしょう」。

 

Q:現在の中東の状況をどうお考えですか?

 

A:和平交渉は閉ざされましたが、再開すると信じています。トルコは交渉の展開に努力しました。

 

Q:なぜ中断したのでしょう?

 

A:あるサイドから交渉の展開が妨げられ、イラク戦争と共に状況はさらに悪化しました。現在、私たちは戦火の中に立たされています。テロはこの3年で急増しているのです。

(大統領は話題をトルコへ転じた。)

トルコのEU加盟は、私たちにとっても重要です。エルドアン首相のブリュッセルにおける交渉を見守っていました。トルコが成し遂げたことに私たちも喜んでいます。

 

Q:米国との関係は良くありませんね?

 

A:そうです。シリアと米国の関係は非常に緊張したものであり、これは、隣国トルコはもちろんのこと全世界の関心事です。

 

Q:関係の正常化にはどうしたら良いでしょう?

 

A:1970年以降、カーター大統領の時代から今に至るまで、関係正常化の為に大きな努力が払われて来ました。しかし、関係にはネガティブな面があり、これは未だ続いています。

 

Q:それは?

 

A:イスラエルの問題です。つまり占領下にある土地。この問題が関係を絶え間無く波立たせてきましたが、最近はこれが頂点に達しています。

 

Q:米国は何をすべきだと思いますか?

 

A:もう軍事力を使うべきではありません。科学と経済の力だけでも充分に世界のリーダーとしてやっていけます。

 

Q:これからどうなるでしょう?

 

A:必要なのは以下の点で、米国は、自分だけではなく他の国々の利益も考えながら世界のリーダーとなるべきです。私たちの利益は余り考えられていません。

(このテーマになるとアサド大統領の口調はなめらかになった)

和平交渉とイラクの問題は、米国の利益だけを念頭に評価されています。しかし、信仰の問題、要求、私たちの利益もあるのです。これが考えられていません。その為に、米国は信頼性と説得力、さらに政治力を失っています。

また、国連は決議したいくつかのことを実施していません。

 

Q:何故でしょうか?

 

A:私はこれを来訪した委員会のメンバーに尋ねましたが、答えを得ることはできませんでした。ダブルスタンダードがあります。

 

Q:現時点における米国との関係については、何と仰ることができますか?

 

A:全ての障害にも拘らず、米国と私たちの間に壁はありません。

 

Q:米国との関係において、将来をどう御覧になっていますか?

 

A:両国とも世界に開かれています。しかし、私たちは欧米のことを良く解っているのに、彼らは私たちのことを解っていません。安全保障に関する交渉を絶やしてはならないでしょう。

 

Q:その為には?

 

A:対話しかありません。これを求めているのですが、米国の一部ではこれを見つけることができません。

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Q:私たちはダマスカスの街を歩いていて、皆さんから大きな関心を寄せられ、とても親しみを感じました。

 

A:それは私も非常に嬉しいことだと思います。トルコを訪問した時のことですが、イスタンブールはマイナス6度まで下がっていて、空港ではトルコ人の記者から「天気についてはどうですか?」と訊かれました。

 

Q:何とお答えになられたのですか?

 

A:こう答えました。イスタンブールの天候は冷えているけれど、トルコの心は暖かい、これを何処へ行っても見ることができました。

トルコでは政府関係者や政治家と話し合い、感銘を受けました。しかし、最も感銘を受けたのは別のことです。

 

Q:何でしょうか?

 

A:予定外の行動で、予告無しにバザールの人々の中へ入ったのですが、そこでトルコの人たちの本当の姿を見て、非常に感銘を受けました。残念ながら、私たちは、これを以前知らなかったのです。

 

Q:何故ですか?

 

A:かつて私たちは歴史を共有して来ました。しかし、冷戦の過程で私たちは大きな間違いを犯していたことが解ります。

 

Q:大統領閣下、私たちの質問に心よりお答え頂きありがとうございます。

 

A:もう少し話したいことがあります。私たちは隣国同士です。私たちの間に信頼がなければ誰も私たちを助けてはくれません。私たちには次のような諺があります、「隣人の暮らしが良くなければ、自分たちの暮らしも良くはならない」。

 

Q:私たちにも類似した諺があります、「隣人が飢えているのでは、安らかに眠ることはできない」。

 

A:まったくです。トルコのEU加盟は重要であり、加盟が実現すれば私たちも誇りに思います。西欧にあるイスラムへの偏見に対し、トルコが示す一つのイメージとなるでしょう。トルコは素晴らしい文明のメッセージを伝えています。

 

Q:大統領閣下、ありがとうございます。ごきげんよう

 

A:また度々来て下さい。こちらからも行かせましょう。オープンで透明な、予約無しの深い付き合い、共通の利益を考えた関係が築かれるように・・・。二つの社会を引き合わせる歴史的な友好関係を強化しましょう。私たちは貴方たちの真の兄弟となることを望んでいるのです。

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