メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

問題の猥褻個所は?

アフメット・アルタン氏の「スダキ・イズ(水に残る痕跡)」という小説を読んでいます。

出版社が記した前書によると、この小説は、85年7月に出版され、その翌年、「猥褻図書」であるという理由で回収処分を受けた後、出版社はこれを不服として、2年に及ぶ法廷闘争が繰り広げられたものの、結局、88年3月に「回収処分」を認める判決が下されました。

しかし、出版社は、一部の猥褻表現だけで本の全てが日の目を見ないのは道理に合わないと主張し、判決により「猥褻」と認定された部分を黒く塗りつぶして再出版。しかも、確定した判決の内容を公表するのは罪に問われないことから、再出版の際、この判決文を小説に添付しました。

判決文には、猥褻の認定を受けた個所の全文が引用されているため、読者は「黒塗り」の部分が現れたら、添付の判決文の中から「問題の部分」を探して読むだけのことです。

日本では、伊藤整氏の翻訳による「チャタレー夫人の恋人」が猥褻とされ、猥褻部分を削除した上で出版の運びとなった話が知られています。

私は中学生の頃、この「チャタレー夫人の恋人」の助平そうなところだけを血眼になって探しながら読んだ覚えがあるけれど、

トルコの出版社と裁判所が見せたような「粋な計らい」さえあれば、わざわざ血眼にならなくても、読みたい部分だけを楽に読むことができたでしょう。