メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

ターキッシュ・ドリーム

93年頃。イスタンブールから郊外へ向かう電車を、夜いつも同じ時間に利用していたのですが、決まって数人の少年が車内で菓子を売っていました。

その中に、ずば抜けて賢そうな少年がいて、話して見ると、日本についての知識などは大人顔負け。中学生と言ってたけれど、ちゃんと勉強しているようだし、態度もなかなか立派でした。

それで、良くこの少年から菓子を買っては、色々話を聞いたりしたのです。

当時、トルコでは、製紙会社だか何かを買収した新興財閥のオーナーが話題になっていて、なんでも、貧しかった少年時代、市バスの中で、歯ブラシや歯磨き粉を売ることから人生をスタートして、成功を収めたという話。

この人物は、学歴を訊かれる度に、そのバスの番号をあげ、「オクメイダン発某番のバスを卒業しました」と答えていたそうです。

それで、電車の中で菓子を売る少年も、そのうち偉い人物になるかもしれないなんて思ったものの、暫くしてその電車を利用することもなくなり、その少年の顔を見ることもなくなりました。

その後、トルコ人の友人にこの少年の話をして、「いやあ、もう少しあの少年に恩を売って置けば良かったな。将来、財閥のオーナーになって、『この哀れな日本人には、昔、大変世話になった』と、私のことを助けてくれたりしてね」と言ったら、

友人は笑いながら、「お前は、そうやって財閥に成り上がったりする奴らの特性が解っていないな。ああいう連中はな、人の恩なんて直ぐに忘れてしまうんだよ」。