メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

コライ・ペンション

イズミルに着いてから1ヵ月半ぐらいの間、右も左も分からず、言葉も殆ど通じない内は、サージットが紹介してくれた「コライ・ペンション」に泊まっていた。

これは日本でいうビジネス旅館のような所である。宿泊者の殆どがトルコ語学校の受講生で、その多くはドイツ人だった。アリという45~6才ぐらいのなかなか感じの良い管理人のおじさんがいて、彼は、10年ほどドイツへ出稼ぎに行ったことがあるそうだ。
しかし、このアリさん、ペンションに泊まっているドイツ人たちからはどうも評判が良くなかった。彼がドイツの悪口を言うようなことは無かったものの、ドイツ人を前にした時の彼の態度が余り良くなかったのは確かである。
一度、夏の短期講習に来ていたドイツ人女性、とにかく体の大きかったことだけ印象に残っているその女性が、アリさんへの不満をサージットに捩じ込んで来たこともあった。
発端は、夜中にドイツから掛かってきた電話を取り次いでくれなかった、ということのようであるが、「あの男は、洗濯物を頼んでも、だまってマージンを取るから泥棒と同じだ。私は明日ドイツへ帰るけど、残った人たちが迷惑するから、あの男をペンションからつまみ出してほしい」とえらい剣幕だった。
私は、「洗濯物を取り次いでもらってマージン取られるのは当たり前でしょう」とかなんとか言いながら弁護を試みようとした。しかし、居合せたアメリカ人の女性までがこのドイツ人に加担すると、なんとか丸く収めようとしていたサージットもついに諦めたのか、「判りました。ペンションのオーナーに報告して直ぐアリを首にしましょう」と言う始末である。
これで納得した彼女たちが意気揚揚と引き上げて行った後で、サージットの方を見やると、「マコト、君が恐れているようなことは起こらないから心配するな。ああ言わなかったら彼女は帰らないじゃないか。でも、国際電話を取り次がなかったのはまずいから、そのことだけはアリに伝えておかないといけないな。さあ、一緒にペンションへ行こう」と言う。私はホッとしながら、サージットと連れ立って外へ出た。