メルハバ通信

兵庫県高砂市在住。2017年4月まで20年間トルコに滞在。

トルコでは女性も負けていない

イスラム系ザマン紙の報道によれば、最近トルコでは経済水準の向上に伴って重婚が増えているという。

例として、18年間連れ添った妻と4人の子供をブルサ市に残したまま、仕事の都合から滞在するようになったイスタンブールで、別の女性と結婚していた男の話が挙げられている。

この場合、結婚と言っても、「イマーム・ニキャーフ」と呼ばれるイマームイスラム僧)だけの承認によるものである。

この男は、子供の教育であるとか、地震の危険性を口実にして、家族をイスタンブールに呼び寄せず、週末だけブルサへ帰る重婚生活を続けていたところ、携帯電話に入っていた「現地妻」からのメッセージをブルサ市の妻に見られてしまい、全てが明らかになってしまったそうだ。

トルコでは、イスラムの教義に則り複数の女性と結婚することは法律上許されていない。

他の新聞ならば、このようなことは言語道断と非難されて終りになるところだろう。

これが、反動的と言われているザマン紙では、ちょっと違っていて、2番目の妻と秘密裏に行なわれる「宗教的な結婚」は、家族の和を乱すことになるから、議論される必要があるとしたうえで、二人の識者から意見を聞いている。

男性の大学教授(宗教学)は、「教義上許されていても、妻子の悲しみや社会的・文化的な条件との適合性を考えなければならない」「残された女性は、教義上も許されていないとはいえ、同様のことができたはずなのに、美徳を示した。男性も同じ美徳を示すべきである」というように説明しながら、「ムスリムであり、アッラーを畏れ、責任感があるならば、このようなことはできないはずだ」と論じていた。

もうひとりは女性弁護士で、スカーフをきっちり被った写真が掲載されていて、彼女自身、敬虔なムスリムであることが判る。

「殆どの人達が宗教に基づいて暮らしていない現状で、宗教のこういった面だけが利用されるのはおかしい」と言う彼女は、人々の信仰心がこの点で揺さぶられ、宗教に対する理解を困難なものにしていると指摘、次のように主張している。

「宗教家や宗教社会学に携わる人達は、日常的な問題と宗教との間に橋を渡し、場合によっては、新しい扉を開くことも必要である」

このようにトルコでは、宗教的な問題に対して女性の立場から積極的に発言したり、イスラム主義運動の先頭に立つ女性もいる。なにやら堅苦しいイメージだが、教条的で全く冗談も通じない人たちというわけではない

以前、イスタンブールでこんな光景を目にした。あか抜けた身なりで共和国の申し子とでも言えそうな青年達の前を、イスラム主義政党の街宣車が通り掛かった時のことである。

街宣車の上にはスカーフを被った女性が数人いて、中でも黒い頭巾を頭からすっぽり被った女性は大きな身振りで気勢を上げていた。

その女性に向かって、青年の一人が一歩進み出ると、中指を突き立てる「ファック・ユー」のゼスチャーをして見せたのだ。これに対して、黒頭巾の彼女は、なんと、ひじを直角に曲げてこぶしを突き上げる、もっとビックな「ファック・ユー」で返し、「ガッハハハ」と笑い飛ばしたのである。

思わぬ反撃に一瞬たじろいだ青年達は気を取り直すと、「お姉さん、格好いいぞ」とばかりに喝采。「ファック・ユー」の青年も、「あんたには負けたよ」とでも言うように、拍手で街宣車を見送っていた。

トルコの女性達は負けていない。ザマン紙の続きを読むと、ブルサ市の女性は、夫の浮気を赦さずに離婚。大きい子は寄宿舎に、小さな子は祖父母に預け、主婦をしながら身につけていたコンピューター・プログラマーの技術を手掛かりに職を見つけ、困難の中をアッラーに祈りながら頑張っているそうである。

経済の発展は、男が妾を囲うことばかりでなく、女性や若者達の自立も容易にしたのではないだろうか。

トルコでは伝統的に、恋する若者達の最後の手段として「駆け落ち」が認められているけれど、こちらの方も増加しているのではないかと思う。

実際、トゥズラの工場では、何度となく従業員同士による「駆け落ち」事件が発生していた。彼らは、自分達だけで結婚届を出し、ほとぼりが冷めてから父母達の了解を取り付けるようだ。

しかし、クズルック工場では今まで聞いたことが無かったし、さすがにこの村では、そうそう「駆け落ち」なんて起らないのだろう、と思っていたら、これがとんでもない話だった。

「田舎カラス」という話で紹介させてもらった「美人ライン長」、こともあろうに、あの娘が「駆け落ち」してしまったのである。

しかし、相手方は残念ながら、29歳のおっさんでも、その恋敵でもなく、別の男だった。

彼女達は1週間ほどで親を説得、村に戻ると、彼女の方はそのままライン長として職場に復帰した。スカーフを被るようになったぐらいで別段変わった所も無ければ、周りもそんなに騒いでいなかった。工場には、無断欠勤3日で解雇、という規定があったはずなのだが、「駆け落ち」は特別な事情として考慮されたのだろうか?

大家の息子の話では、この村でも「駆け落ち」なんてしょっちゅうあるそうで、「どうだいマコト、お前もひとり連れて逃げてみなよ」なんて言われてしまった。しかし、正真正銘の「田舎カラス」である私には、ちょっと無理な相談である。