ネシェ・ドゥゼル氏によるトルコ海軍の退役中将アッティラ・クヤット氏へのインタビューの「後編」です。クヤット氏は、EU加盟のためにもキプロス問題は解決されるべきであると主張しています。
****(以下拙訳)
Q:イラクの戦争に話題が集まる一方でキプロスでも緊張が高まっています。あなたはキプロス戦争の英雄でした。キプロスで戦い、戦死した兵士を見たひとりとして、今日のキプロス問題がどのように解決されたら良いとお考えですか?
A:アナン事務総長の調停案を認めて、一刻も早く解決すべきである。
「キプロスで再びギリシャ系住民がトルコ系住民を殺すだろう。流れた血を忘れてはならない」というのは間違っている。
EUに加盟した国で誰が誰を殺すというのだ。それに、流れた血を忘れてはならないというのであれば、世界が平和になるということもなかった。
また、相互に友好的な関係を築ける国など全く存在しなかったはずだ。
今日、キプロスではお互いに敵意を持っていない新しい世代が育ってきている。
この世代は、「あなた達は28年前、我々を救ってくれた。この恩は500年間忘れません」なんてことを言いはしない。
彼らは平和を、そして人間的な生活を望んでいる。彼らの声に耳を傾けるべきだ。
Q:メティン・ミュニル氏は、キプロスの安全維持軍ラジオ局が平和プランに反対する放送を流していると明らかにしています。このラジオ局はトルコ軍が運営しているそうですが、トルコ軍は平和に反対しているわけですか?
A:そうは思わない。キプロスの平和は政治家が決めることであって、軍の下す決定ではないはずだ。
Q:政府はキプロス問題を解決したいと言い、エルドアン首相も「解決されなかった場合に、北のトルコ系住民が経済水準の高い南へ移住してしまったら、我々はどうしようと言うのだ」と言いながら解決のために説得を試みています。
いったいエルドアンは誰を説得しようとしているのでしょう。キプロス問題の解決を妨げているのは誰なんですか?
A:AKPは未だ完全に政権を掌握していない。もしも、キプロスの問題を解決したいと思っていて、軍人や官僚がこれに反対しているのであれば、彼らに対し「このことに関しては政府として我々に権限がある」と言えるだけの力を持っていなければならない。
政府が望めばキプロス問題は解決できるはずである。何故、できないなんてことを言うのか?
選挙では35%の得票率で成功を収めた。しかし、問題は残りの65%だ。
古い考えから脱皮したことについて、行動によりこの65%を説得しなければならないのに、これが全く巧くいっていない。
巧くいかないと、政権の継続を軍と良い関係を保つことで維持しようとする。もちろん、軍と良い関係を築くことは大切だ。
しかし、「軍は我々を支持しない場合、また介入してしてくるのではないか?」と恐れていたのでは、重要な問題に対して権限を行使することができなくなってしまう。
65%を説得できれば、その時こそ本当の意味で政権につくことができるだろう。
Q:キプロス問題が解決されないことで、何かトルコの利益になることがありますか?
A:そんなものは何処にもない。問題の未解決を望むのであれば、EUには加盟したくないということになってしまう。
デンクタシュ(北キプロス共和国大統領)の取り巻きを御覧なさい。彼らが「EUはトルコにとって有益である。EUを目指そう」なんて言っているのを聞いたことがあるだろうか?
キプロス問題が未解決である限り、我々はEUに加盟できない。しかし、我々はEU加盟が最重要課題ではないような態度を取っている。
私は去年の12月、北キプロスのマゴサに招待され講演した。キプロス問題に関する私の考えは既に知られていた為、各メディアに対し、私の講演を扱わないよう圧力がかけられた。
誰か圧力をかけたのか、私がプログラムを用意したNTVの特派員も講演会場に入ることができなかった。
ちょうどその頃、バイラック放送局は、1時間毎に「我々の中に裏切り者がいる」と言って、南キプロスのパスポートを取得したトルコ系住民の名前を公表していた。
このパスポート取得者の数は、去年、1万2千ぐらいだったが、果たして現在はどのくらいになっただろう?
Q;デンクタシュは住民の抗議にも関わらず、未解決に固執しています。デンクタシュを誰が支援しているのでしょう?
経済的にトルコへ依存し、トルコ以外には承認している国もない北キプロス共和国の大統領がトルコから強力な支援を得ずに、こんな政策を押し進めることは不可能であるように思えますが?
A:つまり、トルコで官僚や軍人、そして民間の中にデンクタシュと同じように考えている人間がいるということだ。
こういった官僚が、大統領や政府の要人にブリーフィングを行なう際、デンクタシュの政策を支持する必要があると言っているのだろう。
Q:この官僚や軍人、民間人は問題が解決されないことによりどんな利益を得ることができるのでしょう?
A:何の利益もない。なんで思考回路が70年代のままになっているのか、私には理解できない。
多分、自分達を正当化できるような情報や文書を持っているのだろう。それならば、私はこう呼びかけたい。「そういった情報や文書を私達にも公開し、何故、キプロス問題の未解決に固執するのか説明しなさい」とね。
Q:キプロス島には、EU加盟を反故にしても構わないような戦略的な価値があるのですか?
A:キプロスはトルコの安全保障にとって既に重要な要素ではない。かつて非常に重要だった時期もある。射程距離が1000キロを越える武器などなかったからだ。
さらに、ソ連の崩壊後、安全保障のために基地を維持する必要のなくなった地域もある。
ただ、もしも将来、オスマン帝国を再興したいと言うのであれば、スエズ運河を制圧する為にキプロスの戦略的な価値は重要なものになるかも知れない。
Q:トルコの軍部はEUへ懐疑的なのでしょうか?
A:私はそう思わない。社会の中に色々な考えがあるように、軍部にも異なる意見があってしかるべきだ。
しかし、社会全般と同様にEU加盟を望むものが多数を占めている。彼らが上層部を説得し、上層部が決定を下した後は、反対派もこの決定を実現するために努力するはずだ。
Q:EU加盟を支持する決定は未だ下されていないのですか?
A:既に下されていると私は思う。トルコ軍がトルコのEU加盟を望んでいると心より信じている。
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