2002年12月30日付けのラディカル紙。ネシェ・ドゥゼル氏(女性)がトルコ海軍の退役中将アッティラ・クヤット氏に、イラクおよびキプロスの問題についてインタビューした記事の「前編」です。
クヤット氏は、いよいよイラク戦争が始まるのではないかと緊張が高まる中、「元々、この戦争の原因はサダムでもなければ、化学兵器や核兵器でもないのだ」と述べ、「この戦争には続きがあると思う」と主張しています。
****(以下拙訳)
Q:トルコはイラクにおける戦争へ加わることになるのでしょうか?
A:戦争に加わることは、エジェビィトがアメリカを訪問した時点で既に決定されていた。訪問の際、このことが議題に上げられ、原則としてイラクで戦争となった場合、トルコはアメリカの側に立つことが決められている。
Q:何を根拠にそう仰るのですか?
A:もしも、政治的な決定がなかったのなら、テクノクラートレベルの会談なんて行なわれるはずがない。
欧州のNATO軍司令官、そしてイラク統監になると思われる人物がトルコに来て、参謀長官および作戦司令官と対談するのであれば、それはこの戦争に加わるとか加わらないとかいう話ではない。
加わることになっている戦争に対して、コーディネーションをどのようにするかという内容のものである。
Q:しかし、我々には何の決定もなかったように伝えられています。我々はごまかされているのでしょうか?
A:閉ざされた扉の向こうで下されたこの決定を自分の名において発表できるポストを見付けることが困難で、決定を国民にどうやって説明するのかがハッキリしていない。
何故なら、国民の85%が戦争に反対しているからである。そもそも、戦争では勝者だってある意味では敗者なのであり、苦痛を味わうことになる。イラク戦争もそうなるはずだ。
Q:先の国家安全会議では「トルコのイラク作戦には国連の承認が必要」と決議されていますが?
A:それは公式発表というものだ。これが会議の内容を反映しているとは思えない。
国連の承認が必要だなんていうのは、ずっと前から言われていることで、そんなものを発表するのに何時間も会議する必要などない。
トルコとしては、この戦争へアメリカ側に立って参加した場合、国際世論に向かって、「我々はこの戦争を止めさせるために最善を尽くした」と言いたいところである。
トルコは、戦争が終ってからこの地域を離れて他の場所へ引っ越したりするわけにいかない。また、イスラム国でもあり、これらの隣人から恨まれるのは好ましいことではない。
Q:トルコがこの戦争でどんな役割を受け持つのか選択できるチャンスはありますか? それともアメリカの望みどおりに行動しなければなりませんか?
A:トルコに選択肢はあまりない。トルコは戦争しようなんて思っていなかった相手に対して、恐らくはスーパーパワーの意志により参戦することになるのだ。
Q:トルコがアメリカを支援しなければどうなりますか?
A:そんな態度を取る為には、経済的に強い国でなければならない。突っ張ろうと思ったら、軍事力だけでは不充分だ。
エルドアンが「イラク問題に関して国民投票を実施する」と言ったら、数時間後にIMFから「トルコには相当渡してあるはずだ」という返答が来た。
トルコにこの戦争を止めさせるような力はない。フランス、ドイツ、ロシアにもこの力はないが、トルコの場合は、戦争に参加しないと経済的に困難な状況に陥ってしまう。
そしてEUとの関係も悪化するだろう。アメリカはこの戦争をイギリスと共に進める。
イギリスはアメリカの望むことをEUに認めさせ、望まないものには拒否権を行使できる国である。
それに、トルコの不参戦を支持してくれる国が周辺に存在していない。世界から孤立してしまうだろう。
時々、「我々にはEUばかりでなく、ロシアや中国といった選択肢もある」なんて言う人がいる。
しかし、本当にそんな選択肢があるのだったら、これらの国にはアメリカの作戦を押し止める力がなければならない。その力もない国に道を求めるのは間違っている。
Q:トルコがアメリカ側に立って戦争に入った場合、どんな影響があるでしょう?
A:トルコが参戦するしないに関わらず、北イラクに独立したクルド人の国家が誕生するということはないだろう。
これはアメリカの利益にならないからだ。しかし、我々も参加することにより、クルド独立国の誕生ばかりでなく、モースル・キルクークがクルド地域に含まれてしまうことを防ぐことができるし、トゥルクメン人の権利を守ることもできる。
また、4千~5千と言われているPKKゲリラが、この戦争によりタラバーニやバルザーニのレベルに強化されてしまうことや、イギリスの支配力が再びこの地域に及ぶことを防げるだろう。
元々、この戦争の原因はサダムでもなければ、化学兵器や核兵器でもないのだ。
Q:では何でしょうか?
A:それはアメリカの非常に長期的な利益といったところだろう。
これは、アメリカ国民の繁栄と安全が二度と脅かされることのないよう、中東から極東にかけての地図を書きかえるための戦争である。
今日、まず地図が書きかえられようしている中東は、アメリカの国民が繁栄するために必要な石油があるばかりでなく、彼らの安全を脅かすイスラム原理主義テロリストの温床となっているのである。
Q:戦争はどのくらい続くでしょうか?
A:1ヵ月も掛からないだろう。しかし、新しい地図が明らかになるには、かなり長い期間が必要となる。
不満分子を抑え込むために時間が掛かるはずだ。アメリカにとっての安全保障は短期間で解決できない。
新しいイラク政府は、北部のクルド、南部のシーア派、そして中部のアラブによる自治州から構成されるだろう。
この過程でイラクの領域は拡大されるかも知れない。アラブ地域の中にヨルダンも加わり、ヨルダンの王族がイラク中央政府のトップとなる。
新イラクにおけるシーア派の自治州にイランが不快感を表すことは間違いない。
アメリカのプランがどうなっているのか知らないが、かつてイラク、イラン、北朝鮮のことを悪の枢軸などと呼んでいた。
もしも、戦争がイラクだけで終れば、「この戦争は独裁者と彼の手にある大量破壊兵器のために起きた」と説明することができるだろう。
しかし、私はこの戦争がこのために起きたのではないことを百も承知している。この戦争には続きがあると思う。
Q:その場合、トルコがアメリカに提供するものは、イラク作戦に限定されるわけではなくなるのですか? アメリカの兵士たちは何年もトルコに留まることになるのでしょうか?
A:イラクの新しい地図が明らかになれば、彼らはイラクへ移ることが可能だ。トルコがアメリカの側に立って戦争へ加わった場合、中東を新たに形作る会議の場に席を得ることができる。
もっとも、席を得たからといって何かを変えることはできないだろう。
しかし、少なくとも他のメンバーがトルコの望まない決定を下す場合に「あなたは参加していなかったじゃないか」と簡単に片付けることはできなくなるはずだ。
Q:トルコがイラクから爆撃されるようなことは考えられますか?
A:その可能性はないと思う。イラクにそんな力はない。化学兵器と核兵器を搭載する飛行機など持っていない。
もしも、ミサイルが残っていたとして、それをトルコに向かって使うとは思えない。それに彼らの保有しているミサイルは、そんなに恐れるほどのものではなく、60年代の技術を使ったロシア製のものである。
イスラエルで通りに落ちた時には、3~5平方メートルの穴ぼこが出来ただけだった。
1991年のイラクは2002年のイラクより遥かに強かったわけで、私はイラクを脅威と見ていない。
参戦した場合、トルコにとって本当の脅威はイスラム原理主義テロの標的になる可能性があるということだろう。
Q:イラクの武器に対するトルコの防衛システムはあるのですか?
A:もちろん、防衛システムはある。トルコがアメリカにイエスと答えた場合、イラクの標的となる場所は、インジルリック、ディヤルバクル、マラテヤ、もしくは提供する他の飛行場である。
これは皆、アメリカ軍が駐屯し、作戦本部の置かれる所だ。この地域の安全はアメリカが確保する。
その他にイラクが「トルコのことも痛めつけてやろう。射程内であるカイセリの商店街にミサイルを打ち込んでやる」なんてことを言うわけがない。
Q:戦争はいつ起きると思いますか?
A:2月の第2~第3週になる可能性が高い。
Q:我々はイラクの国境を越える派兵を行なうべきですか?
A:越えたとしても北イラクにとどめるべきだ。その先に入ってはいけない。イラクの国境が明らかになるまでは長くかかる。
その間、イラクは駐留軍によって統治される。アメリカの将軍が統治する際に、トルコ軍によって管理される地域が必要となる。
地図が書きかえられた後も平和維持のため一部の兵力が数年に亘ってイラクに駐留し、トルコ軍もこの中へ含まれることになるだろう。
Q:実際のところ、北イラクには既にクルド政権が存在しています。トルコにとって望ましくない結果が、戦後、公式のものになるのではないのですか?
A:その通りだ。トルコ政府の間違った政策のために、トルコの望まないことばかりが実現する。
これはキプロスでも同様だ。もしも、正しい政策を実施していたならば、今日、アメリカと共にイラクの国境を越える必要もなかっただろう。
我々は北イラクをいつも脅威と見て来た。「北イラクの民主化を助けて、経済を発展させ、友好的にふるまった場合、彼らは禍をもたらすだろう、すなわちトルコ国内のクルド国民も独立を希望するようになるはずだ」と考えて来たのである。
このため、そうならないように努力したのだが、結果的に我々にとって好ましくない政権が登場することとなった。
バルザーニとタラバーニは湾岸戦争の後、北イラクに生じた権力の空白に乗じて力をつけてしまった。この空白は我々が作ったのである。自ら脅威を作り上げてしまうことに関して我々に勝る国など何処にもないだろう。
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